


「父が軍用地を持っていたらしいが、どこにあるのか分からない」「毎年振り込まれていたお金は、これからどうなるのか」。
軍用地は、沖縄以外ではほとんど耳にしない、少し特殊な不動産です。所有していても自分では使えず、そのかわりに国から賃借料が支払われます。
そのため、相続したときの手続きも、判断の材料も、住宅や普通の土地とは違ってきます。買いたいという声が先に届くこともあり、内容がよく分からないまま話が進んでしまうこともあります。
この記事では、軍用地を相続したときにまず確認すること、名義変更の手続き、売る・持ち続けるを考えるときの視点、税務で注意したい点を整理します。
執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年07月26日
最終更新日:2026年07月26日
情報確認日:2026年07月26日
この記事の目次
軍用地とは、米軍施設や自衛隊施設として使われている土地のうち、個人や法人が所有している民有地を指す呼び方です。
沖縄では、戦後に接収された土地がそのまま施設用地として使われてきた経緯があり、施設の敷地に多くの民有地が含まれています。
所有者は、国(防衛省)との間で土地の賃貸借契約を結び、その対価として賃借料を受け取っています。米軍施設の用地について国が土地を使用できる根拠は、日米地位協定に基づく施設・区域の提供と、それを実施するための駐留軍用地特措法などの仕組みにあります(参考:沖縄防衛局)。
軍用地には、次のような特徴があります。
自分で使えない一方で収入がある、という点が、住宅や更地との一番大きな違いです。「使う・貸す・住む」という選択肢がないため、判断は「持ち続けるか、手放すか」に絞られます。
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用語解説
地主会とは、軍用地の所有者が市町村ごとに組織している団体です。名義変更や賃借料の明細書の発行など、日常的な手続きの窓口になります。県内の各地主会が加盟する連合組織が、沖縄県軍用地等地主会連合会(土地連)です。
相続が起きたら、売る・売らないを決める前に、まず現状を確認します。順番としては、次の3つです。

固定資産税の納税通知書、賃借料の明細書、権利証や登記識別情報などから、所在地番と地積を確認します。
軍用地は現地を見て確認することができないため、書類が手がかりになります。所属している地主会からの郵便物が残っていれば、そこから施設名がたどれることもあります。
法務局で登記事項証明書を取得し、名義が誰になっているかを確認します。
親の名義のままであれば相続登記が必要です。祖父母やそれ以前の代の名義のままになっている場合は、相続人の確定から始めることになり、時間がかかります。
軍用地であっても、この点は他の不動産と変わりません。相続登記は2024年(令和6年)4月1日から義務化されており、取得を知った日から3年以内の申請が必要です(出典:法務省「相続登記の申請義務化について」)。
2024年4月1日より前に、相続で取得したことをすでに知っていた不動産については、原則として2027年(令和9年)3月31日までに申請する必要があります。古い相続のまま名義が残っている軍用地も、この期限の対象です。詳しくは相続登記の義務化と期限の考え方をご覧ください。
相続人が複数いる場合、遺産分割の話し合いがまとまるまで、その不動産は相続人全員の共有状態です。
軍用地は毎年収入が入るため、「分けずに共有のままにしておこう」という判断になることがあります。ただし、共有のままにすると、売却や次の相続の場面で全員の合意が必要になります。共有の扱いについては共有名義の不動産を売却するときの進め方もあわせてご確認ください。
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手元で確認できる書類
軍用地の相続で見落とされやすいのが、手続きが2段階になっている点です。

土地を貸している側(賃貸人)の地位は、相続によって相続人に引き継がれます。民法では、相続人は相続開始のときから被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定められています(民法第896条)。
つまり、相続が起きたからといって国との契約が終わるわけではなく、あらためて契約を結び直す必要も基本的にはありません。
一般的には、次の順で進みます。
沖縄県軍用地等地主会連合会(土地連)は、名義変更や振込口座の変更といった手続きは所属する地主会で行うものとしており、必要書類は状況によって異なるため、直接地主会へ問い合わせるよう案内しています。賃借料の明細書も、所属地主会が発行しています(参考:土地連「質問集」)。
法務局の登記だけを済ませて地主会への届出を忘れると、賃借料の振込先が古いままになることがあります。登記が終わったら、地主会への連絡までを1セットと考えておくと安心です。
軍用地の相続でいちばん悩ましいのが、この判断です。どちらが正解と決まっているものではなく、家族の状況によって変わります。

賃借料という収入が続くことが、保有の主な理由になります。一方で、次の点は確認しておきたいところです。
軍用地は、売買の対象になります。価格は、年間の賃借料に対して何倍かという「倍率」で語られることが多く、施設や場所によって水準が異なります。
ただし、倍率という言葉だけで判断すると、実際の手取りが見えにくくなります。年間の賃借料がいくらか、譲渡したときの税負担がどうなるか、相続した他の財産とのバランスはどうか。こうした点まで含めて比べる必要があります。
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判断のポイント
比べるのは倍率だけではありません。年間の賃借料・税負担・他の相続財産とのバランス・相続人の方針をそろえてから、売る・持ち続けるを検討します。
返還が決まると、賃借料の支払いは終わり、その土地は「自分で使える土地」に戻ります。跡地の状況によっては、活用や売却の選択肢が広がることもあります。
沖縄県の資料によれば、返還された土地について、所有者が引き続きその土地を使用せず収益していないときは、返還日の翌日から3年を超えない期間内で給付金が支給される仕組みがあります(沖縄県「沖縄県における駐留軍用地の返還に伴う特別措置に関する法律」第8条)。土地区画整理事業が行われる場合には、3年を超えて特定給付金が支給される仕組みもあります。
ただし、いつ返還されるか、返還後にどう使えるようになるかは、施設や区域ごとに事情が異なります。返還の見通しについては、沖縄防衛局や沖縄県の公表資料でご確認ください。
イエリテの実務から
軍用地は、内容を細かく把握しないまま相続されていることがあります。そこへ「買いたい」という話が届くと、判断材料がそろわないまま進んでしまいがちです。
売る・売らないを決める前に、まず賃借料がいくらで、名義がどうなっていて、相続人の間で方針が一致しているかを確認する。そのうえで、提示された条件に納得できるまで質問する。
急いで売却を決める必要はありません。ただし、相続登記や税務の手続きには期限があります。判断はゆっくり考えていただいてかまいませんが、事実確認と必要な手続きは早めに進めてください。
軍用地には、相続税・所得税・固定資産税がそれぞれ関わってきます。判断は個別事情に左右されるため、税理士へご確認ください。ここでは、確認すべき論点だけを整理します。
軍用地の相続税評価は、路線価が設定されていない地域では倍率方式によることが一般的です。評価倍率は、国税庁「財産評価基準書(路線価図・評価倍率表)」で確認します。
国に貸している土地であることをどう評価に反映するかは、個別の判断が必要な部分です。金額に直結するところなので、自己判断せず税理士へ相談されることをお勧めします。
賃借料は不動産所得として扱われ、所得税等の対象になります。土地連も、賃貸料には所得税等が発生し、明細書は所属地主会が発行すると案内しています。
相続した年は、いつからの分が誰の所得になるのかという整理も必要になります。
売却して利益が出た場合は、譲渡所得として課税されます。相続した不動産の売却では、取得費や取得時期の引き継ぎ、相続税の取得費加算といった論点があります。
不動産の売却にかかる税金の全体像は、不動産を売ったときにかかる税金の基本で整理しています。
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注意点
相続税の評価額や譲渡所得の計算は、土地の状況と相続全体の内容によって変わります。ここだけは自己判断を避け、申告前に税理士へご確認ください。
南城市には、かつて知念補給地区と呼ばれる米軍施設がありました。土地連の記録によれば、1974年(昭和49年)10月15日に全部返還されています。
そのため、南城市にお住まいの方が軍用地の相続でご相談に来られる場合、対象の土地は市外の施設にある、というケースがあります。土地が市外にあっても、相続人が南城市や沖縄県南部にお住まいであれば、手続きの進め方や家族間の整理といった部分でお役に立てることがあります。
また、南城市内の他の不動産とあわせて相続している場合は、軍用地だけを切り離さず、全体として「どう分けるか」を考えたほうが整理しやすくなります。
基本的には必要ありません。賃貸人の地位は相続によって引き継がれます(民法第896条)。ただし、法務局での相続登記と、所属する地主会への名義変更の届出は必要です。必要書類は地主会へご確認ください。
自動では変わりません。所属する地主会で、名義変更と振込口座の変更手続きを行う必要があります。
遺産分割の話し合いで決めます。共有のまま持ち続ける、一人が取得して他の相続人へ代償金を払う、売却して代金を分ける、といった方法があります。共有は当面の分けやすさがある一方で、将来の手続きに全員の合意が必要になります。
固定資産税の納税通知書と、地主会からの郵便物を確認してください。亡くなった方の不動産が把握できない場合は、2026年(令和8年)2月2日から始まった所有不動産記録証明制度を利用して、名義人の不動産を一覧で確認する方法もあります。ただし、氏名や住所の変更が登記に反映されていない場合など、検索条件によっては一覧に表示されない不動産もあります。この証明書だけですべてを確認できるとは限らないため、納税通知書などとあわせてご確認ください。
必ず売れるとは言えません。施設や区域、賃借料の水準、返還の見通しなどによって、買い手の関心は変わります。条件を確認したうえで進め方を検討してください。

まず手元で確認できるのは、賃借料の明細書と固定資産税の納税通知書です。この2つがあれば、現状を整理する出発点になります。
本記事は、一般的な情報提供を目的としています。個別のケースによって、手続きの内容や判断は異なります。
軍用地を相続された方、これから相続を迎える方へ
「どこにある土地か分からない」「買いたいと言われているが判断できない」という段階でも構いません。まず現在の状況を一緒に整理し、売る・持ち続けるという選択肢を比べるところからお手伝いします。登記や税務など専門的な判断が必要な場面では、司法書士や税理士など専門家へのお取り次ぎもあわせてご案内します。南城市および沖縄県南部の不動産について、お気軽にご相談ください。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
相続した不動産の扱いでお悩みの方は、状況を整理するところからお気軽にご相談ください。