

執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年08月24日
最終更新日:2026年08月24日
情報確認日:2026年08月24日
高低差のある土地や、後ろに崖がある土地を売りに出そうとするとき、「そもそも建て替えができるのか」「査定額が下がるのではないか」という疑問が出てきます。
先にお伝えすると、崖地であること自体が売却できない理由にはなりません。ただし、建築時に確保しなければならない距離や、造成にかかる規制、土砂災害警戒区域の指定の有無によって、買主が使える土地の範囲や建築計画が変わり、それが査定額に影響することがあります。
崖地には、建築基準法・沖縄県独自の「がけ条例」・盛土規制法・土砂災害防止法など、複数の法令が関わります。当社で実際に崖地の戸建てを査定した経験を交えながら、南城市を中心とした沖縄県南部の状況を法令・公的資料にもとづいて確認していきます。
この記事の目次
崖地であることは、売却の可否を決めるものではありません。ただし、建築時に確保しなければならない距離や、複数の区域指定の有無によって、買主が使える土地の範囲が変わり、それが査定額に影響することがあります。要点を整理します。
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先に結論
法令上、「崖地」という言葉そのものを定義した条文があるわけではありません。実務で崖地として扱われるのは、主に次のような土地です。
沖縄県のがけ条例が対象とするのは「高さ2メートルを超える崖」です。2メートル以下の段差であれば、がけ条例の対象にはなりませんが、建築基準法上の安全措置の義務そのものは、高さにかかわらず生じ得ます(次章で説明します)。
擁壁そのものの構造基準・検査済証の有無については、「擁壁のある土地は売れる?沖縄で既存不適格擁壁と検査済証がない場合の注意点」の記事で詳しく整理しています。本記事では、崖地という地形そのものにかかる規制・注意点を中心に扱います。
崖地には、建築基準法・沖縄県のがけ条例・盛土規制法という、性質の異なる複数の規制が関わります。順番に見ていきます。
建築基準法第19条第4項では、「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」とされています(出典:建築基準法(e-Gov法令検索))。
この規定のポイントは、求められる措置が擁壁の設置に限られない点です。土地の状態や崖の性質によっては、擁壁以外の安全措置で足りると判断される場合もあります。具体的にどのような安全措置が必要かは、建築計画時に土地・崖の状況に応じて個別に確認する必要があります。

沖縄県には、崖地における建築物の位置を制限する独自の条例があります。沖縄県建築基準法施行条例第5条第1項では、高さ2メートルを超える崖に接し、または近接して建築物を建てる場合、崖の上に建てるときは崖の下端から、崖の下に建てるときは崖の上端から、建築物との間に崖の高さの1.5倍以上の水平距離を保つ必要があるとされています(出典:沖縄県「建築基準法関係FAQ」)。
たとえば、高さ4メートルの崖であれば、原則として6メートル以上の水平距離が必要になります。この距離を敷地内で確保できるかどうかは、土地の広さや形状によって大きく変わり、建て替えの可否や建築できる面積に直結します。
一方で、この規定には適用除外の余地もあります。沖縄県の公表資料によると、建築物の用途・規模・構造や、擁壁など崖の状況によって安全上支障がないと認められる場合には、条例第3項の規定により適用除外となる場合があります。この判断は個別に行われるため、該当するかどうかは特定行政庁(南城市の場合は沖縄県南部土木事務所の建築班)や、指定確認検査機関、建築士へ確認することをお勧めします。
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用語解説
がけ条例:都道府県・市が建築基準法に基づいて定める、崖に近接する建築物の位置・構造を制限する条例です。内容は自治体ごとに異なります。沖縄県では建築基準法施行条例第5条がこれにあたります。
崖地の造成や宅地開発を伴う工事には、「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称:盛土規制法)が関わります。この法律には、性質の異なる2種類の規制区域があります。
沖縄県では、令和8年(2026年)10月1日にこの2種類の区域を指定し、運用を開始する予定です(本記事の情報確認日時点)。規制区域案は、島しょ部を含む県内ほぼ全域(那覇市を除く)に及ぶ見込みで、南城市・八重瀬町・南風原町・与那原町・豊見城市・糸満市など沖縄県南部の市町村も対象に含まれています(那覇市は中核市のため、市が別途指定します)(出典:沖縄県「盛土規制法に基づく規制区域(案)の公表」)。
指定後は、崖地で切土・盛土を伴う造成工事を行う場合、区域の種類や工事の規模等によって、届出または許可が必要になる場合があります。具体的な対象規模(高さ・面積等の数値基準)は、沖縄県が公表する「許可申請等の手引き」による予定です。記事の閲覧時期によって取り扱いが変わるため、最新の指定状況・対象規模は沖縄県の担当窓口でご確認ください。
なお、盛土規制法には「造成宅地防災区域」という制度もあります(同法第45条)。これは、宅地造成に伴う災害で相当数の居住者に危害が生じるおそれが大きい一団の造成宅地を、知事が指定できる区域です。沖縄県内での指定状況は本記事の調査時点で確認できていません。該当の有無は自治体への確認が必要です。
崖地には、盛土規制法とは別に「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」(急傾斜地法)が関わる場合があります。都道府県知事が指定する「急傾斜地崩壊危険区域」は、沖縄県では建築基準法第39条の「災害危険区域」として扱われます(出典:急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(e-Gov法令検索)第3条第1項、沖縄県「建築基準法施行条例の解説」第3条)。
区域内でのり切・切土・掘削・盛土・工作物の設置や改造など一定の行為を行う場合は、知事の許可が必要です(急傾斜地法第7条)。ただし法定の例外もあるため、区域内の工事がすべて許可の対象になるわけではありません。
また、沖縄県建築基準法施行条例第4条により、災害危険区域内で住居用途の建築物を建築することは原則制限されます。災害防止上必要な措置を講じ、特定行政庁が安全上支障がないと認めた場合は例外となります。
急傾斜地崩壊危険区域と、次に説明する土砂災害警戒区域・特別警戒区域は別の制度です。同じ土地が両方の区域に重なって指定されている場合もあるため、売却前にはそれぞれの指定状況を個別に確認することをお勧めします。
崖地には、地形・地質から土砂災害のリスクが高いと判断され、警戒区域に指定されている土地もあります。区域の種類によって、売却・建築への影響が変わります。
崖地を含む土地が「土砂災害警戒区域」や「造成宅地防災区域」に指定されている場合、宅地建物取引業者は、売買の重要事項説明でその旨を説明しなければならないとされています(出典:宅地建物取引業法施行規則(e-Gov法令検索)第16条の4の3第1号・第2号)。区域に指定されているからといって売買ができないわけではありませんが、買主への説明が必須の事項になります。
土砂災害警戒区域のうち、特に危険性が高いと判断された区域は「土砂災害特別警戒区域」(通称:レッドゾーン)に指定されます。レッドゾーンでは、次のような追加の規制がかかります。
自己が居住するための住宅を建てること自体は、この許可の対象には該当しません。ただし、居室のある建物には構造上の基準が課されるため、通常の建築より設計・費用面での配慮が必要になる場合があります。
土砂災害防止法上、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)の指定そのものには、レッドゾーンと同じ特定開発行為の許可・構造規制はなく、主に警戒避難体制の整備と重要事項説明が中心になります。ただし、前章の急傾斜地崩壊危険区域など、別の区域指定・法令が重なって指定されている場合は、その法令にもとづく規制が別途かかることがあります。区域の種類によって規制の重さが異なる点に注意してください。
沖縄県の公表資料によると、令和7年7月末時点で、沖縄県南部土木事務所管内の土砂災害警戒区域等の指定箇所数は次のとおりです(出典:沖縄県「土砂災害警戒区域等指定状況(南部管内)」)。南城市71箇所(急傾斜地の崩壊35・土石流16・地すべり20)、那覇市134箇所、豊見城市45箇所、糸満市18箇所、南風原町17箇所、与那原町11箇所、八重瀬町3箇所などとなっています。指定は随時更新されるため、対象の土地が該当するかどうかは、沖縄県の指定状況図や自治体への確認で個別に調べる必要があります。
イエリテの実務から
当社では、崖地に建つ築40年ほどの中古戸建てについて、売却査定のご相談をお受けしたことがあります。高さ4メートルを超える崖地に建っており、擁壁は設置されておらず、石積みの上にコンクリートブロック塀があるだけという状態でした。現地を確認したうえで、そのままの状態では買主にとって建て替えや増改築のハードルが高いと判断し、解体費用と擁壁の設置費用の概算を試算し、それらを差し引いた査定額をご提示しました。結果として、周辺の相場と比べてかなり低い査定額になりました。
この経験からお伝えできるのは、崖地の査定では、土地そのものの価値だけでなく、建て替え・造成にかかる追加費用を差し引いて考える必要がある場合があるということです。すべての崖地に同じ傾向が当てはまるわけではなく、崖の高さ、擁壁の有無や状態、道路との位置関係によって影響の大きさは変わります。査定を依頼する際は、崖の状態や既存の擁壁の有無を含めて確認してもらうことをお勧めします。査定の受け方そのものは通常の土地と同じで、「不動産の売却査定とは?机上・訪問査定の違いと査定額の見方」で整理しています。

ここまでの規制内容を踏まえ、売却前に確認しておきたい項目と、買主への告知に関する注意点を整理します。
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確認ポイント
宅地建物取引業者は、売買の勧誘に際して、対象不動産の利用制限や環境など、買主の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げなかったり、事実と異なることを告げたりしてはならないとされています(出典:宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)第47条第1号)。崖の状態や区域指定などの情報は、買主の判断に影響する事項にあたるため、把握している事実は媒介する宅地建物取引業者へ伝え、重要事項説明・告知書に反映してもらうことが大切です。
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次に行うこと
相続で崖地を取得した場合、相続税評価上は「がけ地補正率」という考え方が適用されることがあります。国税庁の財産評価基本通達では、崖地等で通常の用途に供することができない部分を有する宅地は、その部分の地積割合に応じた補正率を乗じて評価するとされています(出典:国税庁「財産評価基本通達」20-5)。また、著しい高低差などにより利用価値が低下していると認められる宅地についても、評価が減額される場合があります(出典:国税庁タックスアンサーNo.4617)。
具体的な補正率や適用要件は個別の土地の状況によって異なるため、相続税評価額を算出する場合は、税理士へご相談ください。
なお、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内となる部分を含む宅地には、財産評価基本通達20-6による別の評価ルールがあります(出典:国税庁「財産評価基本通達」20-6)。20-5のがけ地補正率との適用関係もあるため、具体的な相続税評価は税理士等へ確認してください。
相続税評価上の減額と、実際の売却価格は連動するとは限りません。売却価格は、あくまで市場での需給や買主の建築計画によって決まります。
崖の高さが2メートルを超える場合、原則として崖の高さの1.5倍以上の水平距離を確保する必要があります。敷地の広さや崖との位置関係によっては、確保が難しい場合もあります。安全上支障がないと認められる場合は適用除外となることもあるため、建築士や特定行政庁への相談をお勧めします。
崖の高さ、擁壁の有無や状態、造成・解体にかかる費用の見込みによって影響の大きさは変わります。当社で扱った案件では、解体費用と擁壁費用の概算を差し引いた結果、周辺相場より低い査定額になったケースがありました。一律の目安はなく、個別に現地を確認したうえでの判断になります。
自己が居住するための住宅を建てること自体は、開発許可(特定開発行為の許可)の対象にはなりません。ただし、居室のある建物には、想定される衝撃に耐えられる構造方法が求められるため、通常より設計・費用面での配慮が必要になる場合があります。
盛土規制法の規制区域には2種類あります。宅地造成等工事規制区域では、一定規模以上の宅地造成等の工事に知事の許可が必要です。特定盛土等規制区域では、工事の種類・規模等によって届出または許可が必要になります。沖縄県では2026年10月1日に規制区域を指定・運用開始する予定のため、対象地の区域区分と工事規模は最新の区域図・手引きでご確認ください。
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次に行うこと
本記事は、一般的な情報提供を目的としています。崖地の法規制・査定への影響は、個別の事情によって異なります。
崖地だからといって、売却をあきらめる必要はありません。崖の状態や規制区域の該当状況を確認しながら、売る・そのまま持つといった選択肢を整理するところからお手伝いします。売却を決めていない段階でも、お気軽にご相談ください。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
南城市や沖縄県南部の土地売却について、地域事情や土地の条件を踏まえてご提案します。