

執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年08月27日
情報確認日:2026年08月27日
家を貸すと決めたあと、家賃と並んで決めなければならないのが敷金と礼金です。募集条件を書き出す段階になって、この2つで手が止まる方は少なくありません。
当社へ寄せられるご相談でも、「敷金を取らないと、退去のときの費用が心配だ」「そもそも礼金は取れるものなのか」という声をいただくことがあります。金額を決める材料が手元にないまま、周囲の物件をなんとなく真似して決めてしまう、という状況です。
ただ、敷金と礼金は、性質のまったく違うお金です。とくに敷金については、金額を高く設定すれば貸主のリスクをそのぶん抑えられる、と受け止められていることがあります。ここには法律上のはっきりした限界があり、金額だけを上げても期待した効果は得られません。
まず2つのお金の違いを整理したうえで、金額を決めるときに何を材料にできるのかを見ていきます。
この記事の目次
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先に結論:決める順番
南城市で一律に何か月分と決めるのではなく、家賃・周辺の条件・保証内容・物件の状態・初期費用の総額を合わせて設定します。沖縄県を対象に含む公的な相場統計は確認できていないため、月数を先に決め打ちする根拠はありません。
同じ「入居時に受け取る一時金」でも、この2つは扱いが正反対です。
敷金は、法律に定義があります。民法では、名目が何であれ、家賃をはじめとする借主の債務を担保する目的で借主から受け取る金銭を敷金と呼びます(民法第622条の2第1項)。条文には「いかなる名目によるかを問わず」と書かれており、契約書に「保証金」と書いてあっても、担保の目的で預かるお金であれば敷金として扱われます。名前を変えれば別のルールになる、というものではありません。
そして貸主は、次のいずれかにあたるときに、預かった敷金から借主の債務額を差し引いた残りを返さなければなりません(同条第1項)。
注意したいのは、返還の義務が生じるのが「契約が終わったとき」ではなく、契約の終了と明渡しの両方がそろったときだという点です。鍵を返してもらい、部屋が空いた状態になってはじめて、精算して返す段階になります。
なお、借主の側から「退去するので、来月分の家賃は敷金から充ててほしい」と求めることはできません(同条第2項)。敷金を債務の弁済に充てるかどうかを決められるのは貸主の側です。
一方の礼金には、民法上の定義規定がありません。担保のために預かるお金ではないため、敷金にはあたらず、返還を前提としない一時金として慣行的に扱われてきたものです。
金額の上限を直接定める法令も、今回確認した範囲では見あたりませんでした。ただし、これは「いくらでも自由に設定してよい」という意味ではありません。貸主が事業者にあたる場合、消費者である借主との契約は消費者契約法の適用を受け、内容によっては条項が無効と判断されることがあります(消費者契約法第10条)。ここでいう事業者は法人だけを指すものではなく、個人であっても事業として、または事業のために契約する場合は事業者にあたります(消費者契約法第2条第2項)。所有している戸数だけで決まるものではありません。消費者庁の逐条解説は、ここでの「事業」を「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」と説明し、事業規模や形態のいかんは問わないとしています。最終的には契約や賃貸の実態など具体的な事情によって判断されるため、「1軒だから関係ない」とは考えないでください。実際には、募集条件として借主に受け入れられる水準かどうかという市場の制約のほうが先に働きます。
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2つの違い

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
当社へ寄せられるご相談のなかには、「敷金を厚めに預かっておけば、退去のときに困らないのではないか」という前提でお話をされる方がいらっしゃいます。気持ちとしては自然なのですが、法律の仕組みのうえでは、預かる金額を増やしても差し引ける費用の範囲そのものは広がりません。
敷金から控除できるのは、賃貸借にもとづいて生じた借主の金銭債務です(民法第622条の2第1項)。具体的には、未払いの家賃や、借主が負担すべき原状回復費用、借主の責任による損害の賠償などが該当します。
逆にいえば、借主が支払う義務を負っていない費用は、敷金をいくら預かっていても差し引けません。10万円預かっていても、20万円預かっていても、借主が負う債務が5万円なら、差し引けるのは5万円です。残りは返すことになります。
金額を上げて変わるのは差し引ける上限であって、差し引ける項目ではありません。
では、借主が負う原状回復の義務はどこまでか。民法は、借主が原状回復義務を負う損傷から、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を明文で除いています(民法第621条)。さらに同条のただし書は、借主の責めに帰することができない事由による損傷も対象外としています。
つまり、次のようなものは原則として貸主の負担です。
退去のあとに壁紙を全面的に張り替えたとしても、その費用のうち通常損耗・経年変化にあたる部分は、敷金から差し引くことができません。「敷金を多めに預かったので、そこからリフォーム費用を出す」という考え方は、この点で成り立ちません。
負担区分の具体的な線引きや、経過年数をどう考えるかは、戸建てを貸すときの原状回復は誰の負担?貸主が知っておきたいルールで詳しく整理しています。
「では契約書に特約を書けばよいのでは」と考える方もいらっしゃいます。通常損耗の補修費用を借主の負担とする特約は、それ自体が直ちに無効になるものではありません。ただし、書いておけば当然に効力が認められる、というものでもありません。
国土交通省「「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のQ&A」は、借主に不利な内容の特約について、判例も踏まえて満たしておく必要があると解されるポイントとして、次の3点を示しています。
契約書のどこかに一行入れてあるだけ、あるいは口頭で軽く触れただけでは、3の合意があったと言いにくくなります。負担してもらう範囲を契約書に具体的に書き、契約時に説明したうえで合意を得る、という手順が必要になります。
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注意点
このガイドラインには法的な拘束力はなく、実際の効力は特約の内容と合意の仕方によって判断されます。貸主が事業者にあたる場合は、消費者契約法第10条により無効と判断される可能性も残ります。特約の文言をどう定めるかは、契約書を作成する不動産会社や、必要に応じて弁護士へご確認ください。
ここまで読むと、敷金を預かる意味がないように感じられるかもしれません。そうではありません。備えとして働く場面は、はっきりしています。
敷金が実際に役立つのは、次のような場面です。
いずれも借主が金銭債務を負う場面であり、敷金から充当できます。裏を返すと、敷金は借主が負う債務を回収するための原資であって、建物の経年劣化に備える積立金ではありません。
年数の経過による設備の傷みに備えるのであれば、敷金を厚くするのではなく、家賃収入のなかから修繕のための資金を確保しておくほうが、目的に沿った備え方になります。
預かった敷金の一部を返還しないと契約であらかじめ定める方法(敷引き)もあります。ただし、貸主が事業者にあたり、借主が消費者である契約では(前述のとおり、個人であっても事業として貸す場合は事業者にあたり得ます)、返還しない金額が高額に過ぎる場合に、消費者契約法第10条に照らして無効と判断されることがあります。金額の妥当性は、家賃の水準や通常損耗の補修費用との対比などから個別に判断されます。
「返さないと書いておけば確実に手元に残る」とは考えず、こうした定めを置く場合は、契約書の作成を依頼する不動産会社に、根拠と金額の妥当性を確認してください。

では、実際にいくらに設定するか。判断の材料になるものと、ならないものを分けて考えます。
国土交通省の「住宅市場動向調査」には、敷金・保証金の月数や礼金の支払状況を尋ねる設問があり、結果が公表されています。ただし、この調査の民間賃貸住宅編で集計されている地域は三大都市圏(首都圏・中京圏・近畿圏)で、沖縄県は対象に含まれていません。
南城市や沖縄県南部の敷金・礼金の水準を示す公的な統計は、今回調べた範囲では確認できませんでした。インターネット上には相場を示す情報がありますが、公的な調査にもとづくものかどうかは出典を確かめる必要があります。数字だけを根拠に決めることは避けたほうがよいでしょう。
公的な統計がない以上、現実的な材料は、いま同じ地域で募集されている物件の条件です。
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確認したいこと
募集中の条件は賃貸情報サイトからも確認できますが、成約に至った条件までは分かりません。地域で募集を扱っている不動産会社に確認すると、募集中の条件と実際に決まった条件の両方を踏まえて判断できます。
家賃そのものがまだ決まっていない場合は、先に家賃の見通しを立ててください。敷金・礼金は家賃の何か月分という形で示されるため、家賃が固まらないうちは金額を決められません。家賃の決まり方は南城市で戸建ての家賃はどう決まる?査定で見る5つのポイントと貸す前の確認事項で整理しています。
家賃債務保証会社を利用する場合、「保証会社に入ってもらうなら敷金は要らないのでは」と考える方もいらっしゃいます。
家賃債務保証業には国土交通省の家賃債務保証業者登録制度がありますが、これは任意の登録制度で、登録がなくても営むことができます。そして、保証会社を使うときに敷金をどう扱うべきかを定めた法令や公的な基準は、今回確認した範囲では見あたりませんでした。
保証の対象(滞納家賃だけか、原状回復費用まで含むか)や限度額は、会社やプランによって異なります。「保証会社に入れば敷金は不要」と一般化はできず、利用する保証会社の保証範囲を個別に確認したうえで判断することになります。保証人・保証会社の選び方は戸建て賃貸の入居審査で確認するポイントは?保証人・保証会社の選び方で扱っています。
敷金・礼金を設定しない条件で募集することもできます。借主が入居時に用意する初期費用がそのぶん下がるため、申し込みのしやすい条件になります。
一方で、退去時に借主が負う債務が生じたとき、手元に預かっているお金がないため、借主へ直接請求することになります。空室が続いている状況で条件を見直す場合には有力な方法ですが、募集開始の時点から一律にゼロにするかどうかは、家賃水準や保証会社の利用と合わせて考える必要があります。
イエリテの実務から
当社でも、募集条件を設定したあとで反応を見ながら見直すことがあります。最初に決めた条件を動かせないものと考える必要はありません。敷金・礼金をいくらにするかで迷って募集開始が遅れるより、条件を決めて出し、反応を見て調整するほうが前に進みます。
敷金・礼金の金額そのものより先に、確かめておいたほうがよいことがあります。
貸す期間があらかじめ決まっている場合、契約の形が募集条件全体に影響します。普通借家契約では、期間が満了しても貸主からの更新拒絶には正当の事由が必要です。あらかじめ期間を区切る定期借家契約という方法もあり、契約の方法や事前説明に決まりがあります。
「数年後に自分が戻る予定がある」といった事情がある場合は、敷金・礼金より先に契約形態を決めてください。詳しくは普通借家契約と定期借家契約の違いは?戸建てを貸すときの選び方をご覧ください。
敷金と礼金は、税務上の扱いも異なります。国税庁の説明によれば、権利金や礼金など返還を要しないものは、貸し付ける資産の引渡しを必要とするものは引渡しのあった日、引渡しを必要としないものは契約の効力発生の日の収入に計上します(国税庁 No.1376 不動産所得の収入計上時期)。
一方、敷金や保証金は本来が預り金であるため、受け取っても収入にはなりません。ただし、返還を要しないことが確定した部分については、収入に計上する必要があります。敷引きの定めを置く場合、返還しない部分がこれにあたります。
その計上時期は、契約でいつ返還不要になると定めているかによって変わります。所得税基本通達36-7は、敷金・保証金等のうち返還を要しないこととなる部分について、次の3つに分けて扱いを定めています(所得税基本通達 第36条関係)。
同36-6は、貸付けに伴い一時に受け取る頭金・権利金・更新料等について、資産の引渡しを要するものは引渡しのあった日、引渡しを要しないものは契約の効力発生の日を原則としています。
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注意点
敷引きの収入計上時期は「必ず契約時」でも「必ず退去時」でもありません。契約書で返還不要になる時期をどう定めているかによって変わります。契約条項に即した判断は税理士へご確認ください。
これは個人の不動産所得(所得税)についての扱いです。実際の申告の判断は税理士へご確認ください。家賃収入全体の申告については家賃収入にかかる税金と確定申告の基本|南城市で家やアパートを貸すオーナーが確認したいことで整理しています。
名前を変えても扱いは変わりません。民法は、いかなる名目によるかを問わず、借主の債務を担保する目的で受け取る金銭を敷金としています(民法第622条の2第1項)。契約書の表記が「保証金」であっても、担保の目的で預かるお金であれば、明渡し後に残額を返す義務があります。返還しない部分を設けたい場合は、その旨を契約で定めたうえで、金額の妥当性が問われることを前提に考えることになります。
借主の側から充当を請求することはできません(民法第622条の2第2項)。敷金を債務の弁済に充てるかどうかを決めるのは貸主です。ただし、実際に家賃が支払われない状態が続いているのであれば、充当するかどうかとは別に、滞納そのものへの対応が必要になります。管理を委託している場合は管理会社へ、そうでない場合は契約書の定めを確認したうえで、早めに対応方針を決めてください。
条件全体のバランスによります。礼金は借主にとって初期費用の増加になるため、他の条件が同じであれば不利に働きます。ただし、入居の判断は家賃・設備・立地・駐車場の有無などを合わせて行われるため、礼金の有無だけで決まるものではありません。当社へ寄せられるご相談でも、礼金を設定できるかどうかを気にされる方がいらっしゃいますが、家賃と礼金のどちらで調整するかという形で考えると整理しやすくなります。
公的な資料から「何か月分が適切」と示すことはできません。前述のとおり、沖縄県を対象に含む公的な統計は確認できていません。同じ地域で募集されている物件の条件、成約している条件、物件の状態を踏まえて決めることになります。判断に迷う場合は、地域で募集を扱っている不動産会社に、募集中と成約済みの両方の条件を確認してください。
借主が負担すべき部分については、不足分を請求できます。敷金はあくまで担保として預かっているお金であり、そこで責任の上限が決まるわけではありません。ただし請求できるのは、借主が負う債務にあたる部分に限られます。通常損耗や経年変化にあたる部分は、敷金が足りていても足りていなくても、貸主の負担です。精算の進め方は原状回復の記事をご覧ください。
金額を決める前に、家賃の見通しと契約の形を先に固めてください。その2つが決まると、敷金・礼金は絞り込みやすくなります。
この記事は、一般的な情報提供を目的としたものです。敷金・礼金の設定や特約の効力は、契約内容や個別の事情によって判断が変わります。契約書の文言や法的な争いについては弁護士へ、税務上の取り扱いについては税理士へご確認ください。制度や運用は変わることがあります。
敷金や礼金をいくらに置くかは、家賃の見通し、物件の状態、周辺で実際に決まっている条件を突き合わせないと判断しにくい部分です。南城市・沖縄県南部で家を貸そうとお考えの方に、募集条件の整理からご相談をお受けしています。貸すかどうかを決めていない段階でも構いません。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
売却だけでなく、賃貸や管理を含めた活用方法についてもご相談いただけます。