

高低差のある土地を見に行くと、境界近くにコンクリートやブロックの擁壁があることがあります。「この擁壁、大丈夫でしょうか」「検査済証が見当たらないのですが売れますか」というご相談をいただくことがあります。
先にお伝えすると、擁壁があること自体は、土地を売却できない理由にはなりません。ただし、擁壁の状態や検査済証の有無によって、買主への説明の仕方や、確認しておくべき事項が変わってきます。
擁壁のある土地には、建築基準法・盛土規制法・沖縄県独自の「がけ条例」など、複数の法令が関わります。「既存不適格擁壁」の考え方、2026年10月から沖縄県で始まる規制区域の指定、売却前に確認しておきたいことまで、建築基準法・盛土規制法・沖縄県の資料をもとに順番に見ていきます。
執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年08月24日
最終更新日:2026年08月24日
情報確認日:2026年08月24日
この記事の目次
擁壁のある土地は、擁壁のない土地に比べて確認すべき事項が多くなります。ただし、それは「売れない」ということではありません。
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先に結論
擁壁のある土地には、複数の法令が関係します。まず全体像を整理します。
建築基準法第19条第4項では、建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならないとされています(出典:e-Gov法令検索「建築基準法」)。これは建築物の敷地に関する規定で、建物を新築・建て替えする場面で働く規定です。更地の売買そのものを直接規制するものではありません。
また、建築基準法第88条第1項により、建築基準法の規定は政令で定める工作物にも準用されます。建築基準法施行令第138条第1項第5号では、この対象として「高さが2メートルを超える擁壁」が指定されています(出典:e-Gov法令検索「建築基準法施行令」)。つまり、高さ2メートルを超える擁壁は、原則として建築基準法上の確認・完了検査の対象になります。高さ2メートル以下の擁壁は、建築基準法上の工作物確認の対象には通常ならないため、同法上の確認済証・検査済証は通常ありません。ただし、都市計画法の開発許可や盛土規制法等の手続きの中で築造されている場合は、別制度の許可書・検査済証等が存在することがあります。
また、建築基準法第88条第4項により、盛土規制法や都市計画法などの許可を受けなければならない擁壁については、この確認・完了検査に関する規定は適用されません(出典:e-Gov法令検索「建築基準法」)。つまり、擁壁の高さだけで、検査済証等の有無を判断することはできません。次で説明する都市計画法の開発許可や、盛土規制法の許可を受けて造られた擁壁には、それぞれ別の制度による許可書・検査済証等が存在することがあります。
擁壁が宅地の造成に伴って作られた場合は、都市計画法の「開発許可」の対象になっていることがあります。都市計画区域内などで一定規模以上の開発行為を行う場合、あらかじめ都道府県知事の許可を受けなければなりません(都市計画法第29条)。開発許可を受けた工事が完了すると、都道府県知事の検査を経て「検査済証」が交付されます(同法第36条。出典:e-Gov法令検索「都市計画法」)。この検査済証は、建築基準法上の擁壁の検査済証とは別の制度によるものです。都市計画法の開発許可がすべての擁壁に必要というわけではなく、開発行為の区域・規模等によって適用が異なります。該当するかどうかは、沖縄県の都市計画法担当窓口(出典:沖縄県「都市計画法に基づく開発許可等」)で確認してください。

擁壁について相談を受けるときによく出るのが「既存不適格」という言葉です。建築基準法第3条第2項では、法令の施行や適用の際に現に存在する建築物等がその規定に適合しない場合、その規定は適用しないとされています(出典:e-Gov法令検索「建築基準法」)。これが既存不適格の考え方の根拠です。
つまり既存不適格とは、築造当時は適法だったものが、その後の基準改正で現行基準に合わなくなった状態を指します。既存不適格であること自体は、直ちに違法という意味ではありません。
ここで注意したいのは、「検査済証がない=既存不適格」と単純に結びつけられない点です。検査済証がない事実だけからは、次のいずれかを区別できません。
どれに当たるかは、擁壁の高さ、築造時期、当時の規制区域指定の有無などを個別に確認しないと判断できません。既存不適格でも、増築や建て替えの際には、その時点の基準への適合が求められる場合があります。この点は擁壁ごとに専門家の確認が必要です。
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用語解説
擁壁を含む宅地の造成については、「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称:盛土規制法。旧・宅地造成等規制法)という法律があります。この法律には、性質の異なる2種類の規制区域があります(出典:e-Gov法令検索「宅地造成及び特定盛土等規制法」)。
沖縄県では、令和8年(2026年)10月1日にこの2種類の区域を指定し、盛土規制法の運用を開始する予定です(本記事の情報確認日時点。出典:沖縄県「宅地造成及び特定盛土等規制法(通称「盛土規制法」)」)。基礎調査の結果を踏まえた規制区域案は、島しょ部を含む県内ほぼ全域(那覇市を除く)に及ぶ見込みで、南城市・八重瀬町・南風原町・与那原町・豊見城市・糸満市など沖縄県南部の市町村も対象に含まれています(那覇市は中核市のため、市が別途指定します。出典:沖縄県「盛土規制法に基づく規制区域(案)の公表」)。南城市の区域案には、両方の区域が含まれています。
つまり本記事の公開時点では、南城市の土地はまだ規制区域に指定されていません。売却対象地がどちらの区域に入るか、区域内でどの手続きが必要になるかは性質が異なるため、沖縄県の規制区域図・担当窓口で確認してください。
区域指定後は、それぞれ次の点にも留意が必要です。
つまり、改修・是正が求められる相手は「現在の所有者・管理者・占有者だけ」に限定されるわけではなく、工事主・工事施行者や、不完全な工事をした者が対象になる場合もあります。命令が実際に出るかどうかは、放置した場合に災害発生のおそれが大きいかなど、行政の個別の判断によります。
区域指定・運用開始の予定日や区域の範囲は、最終的な告示で変わる可能性があります。売却を検討する時期によっては、最新の指定状況を沖縄県の担当窓口で確認してください。
沖縄県には、独自の崖地に関する規制もあります。沖縄県建築基準法施行条例第5条第1項では、土地の高低差が2メートルを超えるがけに近接して建築物を建築する場合、がけの高さの1.5倍以上の水平距離を、がけと建築物との間に確保することを求めています(出典:沖縄県「建築基準法関係FAQ」)。がけ条例のほか、土砂災害警戒区域や急傾斜地崩壊危険区域など、崖地そのものにかかる規制は「崖地の土地は売却できる?沖縄のがけ条例・盛土規制法と査定への影響」で整理しています。
一方で、同条第3項により、建築物の用途・規模・構造や、擁壁・がけの状況などから安全上支障がないと認められる場合は、適用が除外されることがあります。安全性を満たす擁壁があることは、この適用除外の判断材料の一つになり得ます。
がけ条例は、更地の売買そのものを制限するものではなく、建築(新築・建て替え)の際に適用される規定です。ただし、買主が「将来この土地に建て替えができるか」を判断する材料になるため、売却前に確認しておく価値があります。適用の有無や除外の可否は、個別の土地の状況によって判断が分かれるため、沖縄県の建築担当窓口への確認が必要です。建築基準法上の別の制限で建て替えが難しいケースは「再建築不可の土地は売却できる?接道義務と確認の手順」で整理しています。
擁壁の状態確認から、告知の考え方、融資・保険への影響まで、順番に整理します。
国土交通省は「我が家の擁壁チェックシート」など、所有者が擁壁のおおまかな危険度を自己点検できる資料を公開しています。擁壁を安全な状態に維持する責任は、擁壁のある土地の所有者・管理者・占有者にあるとされており、これは盛土規制法第22条第1項の考え方とも整合します(出典:国土交通省「宅地擁壁について」)。
ただし、チェックシートはあくまで概略的な自己点検用の資料です。危険度の確定的な判断や、改修の要否は、専門家による現地調査によって確認する必要があります。境界付近の擁壁で、隣地との境界そのものがはっきりしない場合は「境界が分からない土地は売却できる?沖縄で売る前に確認することと対処法」もあわせてご確認ください。
宅地建物取引業法上、宅建業者は契約成立までの間に、法令に基づく制限の概要などを重要事項として説明しなければなりません(同法第35条第1項。出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」)。この対象となる法令制限を定める宅地建物取引業法施行令第3条第1項には、盛土規制法の許可(第12条第1項など)が含まれています(出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行令」)。
つまり、沖縄県で規制区域が指定された後は、区域内の取引において、盛土規制法上の制限が重要事項説明の対象になります。この説明義務は宅建業者(媒介・売主業者)が負うもので、個人の売主自身に宅建業法上の説明義務があるわけではありません。
とはいえ、擁壁の状態や、行政からの是正指導の有無などは、買主の判断に影響する事項です。把握している情報を隠さずに伝えることが、後のトラブルを避けるうえで基本になります。個別の告知範囲や契約条件については、媒介する宅建業者や専門家にご相談ください。
擁壁の状態が、買主の住宅ローン審査や火災保険の引受にどう影響するかについては、金融機関・保険会社ごとに判断基準が異なり、一般化できる公的な基準は確認できていません。融資や保険の取り扱いに影響する場合があることを念頭に置きつつ、具体的な条件は金融機関・保険会社に個別に確認することをお勧めします。
イエリテの実務から
当社へ寄せられるご相談の中には、擁壁のある土地の取引で、検査済証・確認済証が見つからないというケースがあります。古い擁壁では、そもそも建築確認の対象だったのか、対象だったが記録が残っていないだけなのかが、書類だけでは判断できないことがあります。
このようなケースでは、擁壁の高さや築造の経緯を整理したうえで、専門家に相談しながら手続きを進めることになります。書類が見当たらないという事実だけで手続きが止まってしまわないよう、早い段階で状況を整理しておくことをお勧めします。
擁壁のある土地の売却には、複数の専門家・窓口が関わります。役割を知っておくと、確認の順番を決めやすくなります。
| 相談先 | 担当する範囲 |
|---|---|
| 沖縄県 南部土木事務所(建築班) | 盛土規制法の規制区域の確認、建築基準法上の擁壁の扱い、がけ条例の適用可否 |
| 南城市役所 | 都市計画区域・用途地域の確認 |
| 建築士・設計事務所 | 擁壁の状態確認、改修計画の検討、確認申請の履歴調査 |
| 土地家屋調査士 | 測量、境界の確認 |
| 宅地建物取引業者(不動産会社) | 重要事項説明、売却の進め方、専門家への橋渡し |
| 税理士 | 譲渡所得など税務の判断 |
擁壁の安全性や法令適合の最終的な判断は行政・専門家が担い、不動産会社が代わりに判断することはできません。
擁壁があること自体は、売却の可否を決めるものではありません。擁壁の状態や検査済証の有無によって、買主への説明事項や確認すべき点が増えることがあります。
検査済証が見当たらないことだけでは、違法とは判断できません。高さ2メートル以下の擁壁はもともと建築基準法上の工作物確認の対象外であり、検査済証がないのが通常です。高さ2メートルを超える擁壁でも、記録が保管されていないだけの可能性があるほか、都市計画法の開発許可や盛土規制法などの手続きの中で造られ、建築基準法上の確認そのものが不要だった可能性もあります。この場合は建築基準法の検査済証ではなく、開発許可の検査済証など別の書類が存在することがあります。築造時期や高さを確認したうえで、専門家に相談してください。
築造当時は適法だったものの、その後の基準改正によって現行基準には合わなくなった状態を指します。違反建築物・違反工作物とは区別されます。ただし、増築や建て替えの際には現行基準への適合が求められる場合があるため、個別に確認が必要です。
盛土規制法の規制区域内では、土地の所有者・管理者・占有者が、土地を常時安全な状態に維持するよう努める義務を負うとされています。ただし、知事の勧告・命令の対象は所有者等に限られず、工事主・工事施行者や、不完全な工事などの原因行為者が対象になる場合もあります。改修の要否や費用負担の考え方は、擁壁の状態・権利関係・工事の経緯によって異なるため、専門家にご相談ください。隣地との境界上にある擁壁など、権利関係が複数にまたがる場合は、特に個別の確認が必要です。
沖縄県では、2026年10月1日に規制区域を指定し、運用を開始する予定です(本記事の情報確認日時点)。区域案には南城市など沖縄県南部の市町村も含まれる見込みですが、指定日・区域の範囲は最終的な告示で変わる可能性があります。最新の状況は沖縄県の担当窓口でご確認ください。
金融機関ごとに判断基準が異なり、一般化できる公的な基準は確認できていません。影響する場合があることを踏まえ、具体的な取り扱いは金融機関に個別にご確認ください。

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次に行うこと
本記事は、一般的な情報提供を目的としています。擁壁の状態や法令の適用は、個別の事情によって異なります。
擁壁があるからといって、売却をあきらめる必要はありません。書類の有無や状態を含めて、まずは現地の状況を確認するところからご相談いただけます。売ると決めていない段階でも大丈夫です。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
南城市や沖縄県南部の土地売却について、地域事情や土地の条件を踏まえてご提案します。