

募集を出してもなかなか決まらない時期が続くと、「ペット可にしてみようか」という話が出ます。問い合わせの入口が広がるのは確かで、貸主から相談をいただくこともあります。ただ、ペット可は家賃や敷金のように後から数字を動かせる条件とは性質が違い、室内の傷み方、他の入居者との関係、退去時の精算まで一続きでつながっています。
先に決めておかないと困るのは、「どこまでの飼育を認めるのか」と「傷や臭いの費用を誰が負担するのか」の2点です。この2つは法律と契約の組み合わせで決まる部分があり、募集を出したあとに口頭で足すことが難しくなります。
執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年8月29日
情報確認日:2026年8月29日
この記事の目次
当社へ寄せられるご相談でも、ペット可の検討は空室が続いた時期に出てくることがあります。入居の間口を広げる手段としては分かりやすい方法です。
一方で、判断に必要な材料は空室の状況だけではありません。次の3つを並べて考えると、答えが出しやすくなります。
空室が続く原因がそもそもペット不可ではないこともあります。家賃と設備、募集の出し方を見直す方が早い場合もあるため、原因の切り分けは先に済ませておきたいところです。空室が続く場合の見直しの順番はアパートの空室が続く原因で整理しています。
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この記事で扱う範囲
貸主が自分の物件をペット可にするかどうかの判断と、可にする場合の条件の決め方、退去時の費用の負担区分を扱います。募集条件全体の組み立ては入居者募集の条件の決め方、敷金・礼金の水準そのものは敷金・礼金の決め方で扱っています。
ここが最も誤解の生まれやすいところです。「ペットを飼っていたのだから、退去時は元どおりにしてもらう」という前提で考えると、実際の精算とずれます。
賃借人は、借りたあとに生じた損傷を原状に復する義務を負います。ただし民法621条は、その損傷から「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を明文で除いています。さらに、借主の責めに帰することができない事由による損傷も対象外です(同条ただし書)。
つまり出発点は、普通に住んでいて生じる傷みと、時間の経過による古びは借主の負担ではないというところにあります。ペット可にしたからといって、この原則そのものが変わるわけではありません。
国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)は、退去時の負担区分の考え方を示した資料です。法令ではなく参考指針であり、既存の契約については契約内容に沿った取扱いが原則とされています。この点を「ガイドラインどおりに請求できる」と読み替えないことが大切です。
そのうえで、ペットについては「共同住宅におけるペット飼育は未だ一般的ではなく、ペットの躾や尿の後始末などの問題でもあることから、ペットにより柱、クロス等にキズが付いたり臭いが付着している場合は賃借人負担と判断される場合が多いと考えられる」との記載があります。ペット由来の傷や臭いは、通常損耗とは別に扱われる場合が多いという整理です。
ただし、これは「多いと考えられる」という書き方であって、どの物件でも自動的にそうなるという意味ではありません。損傷の程度、契約の内容、飼育を認めた条件によって結論は変わります。
借主の負担となる場合でも、金額がそのまま満額になるとは限りません。ガイドラインでは、建物や設備の経過年数に応じて借主の負担割合が小さくなる考え方と、負担の範囲を毀損した部分を含む合理的な施工単位で考える考え方が示されています。
具体的には、壁のクロスは6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する考え方が示されています。一方、フローリングの補修は経過年数を考慮しないとされるなど、部位によって扱いが異なります。
築年数の経ったアパートで、臭いを理由に室内全体のクロスを張り替えた場合、その費用の全額を借主に負担させられると考えるのは避けたほうがよいところです。退去時の負担区分の基本的な考え方は戸建てを貸すときの原状回復で詳しく整理しています。

「それなら契約書に書いておけばよい」と考えたくなりますが、借主に不利な特約は、書けば必ず有効になるものではありません。
ガイドラインに付属するQ&A(Q3)は、通常の原状回復義務を超える負担を借主に負わせる特約について、次の3点を有効性の判断材料として挙げています。
消費者契約にあたる場合には、消費者の利益を一方的に害する条項が無効とされることもあります(消費者契約法10条)。定額の消臭費用の条項を置くのであれば、金額と対象を契約書に具体的に書き、契約時に説明して合意を取っておくことが前提になります。口頭で「ペットの分は退去時にお願いします」と伝えただけでは、根拠として弱くなります。ガイドラインでも、将来借主が負担することになる費用の単価等を明示しておくことが紛争防止のうえで欠かせないとされています。
ただし、明記・説明・合意がそろえば、それだけで特約の有効性が保証されるわけではありません。負担の内容や金額に必要性・合理性があるか、消費者の利益を一方的に害する内容になっていないかなども、あわせて個別に判断されます。ガイドラインは、特約の客観性・必要性が認められる場面を限定的なものと解すべきとしており、ペット飼育を認めるためのクロス張替費用は、その特約として想定される例に挙げられています。
ペット可にするときは敷金を1か月分上乗せする、という進め方があります。ここで押さえておきたいのは、敷金の性格です。
民法622条の2は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定めています。賃貸借が終了して物件の返還を受けたときは、債務額を控除した残額を返還しなければなりません。
したがって、上乗せで増えるのは担保の厚みであって、差し引ける費目そのものが増えるわけではありません。借主の負担にならない通常損耗の分は、敷金をいくら預かっていても差し引けません。
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誤解しやすい点
敷金の上乗せは「回収の確実性を上げる備え」であって、「回収できる範囲を広げる手段」ではありません。特約も同じで、契約書に書いたという事実だけで、通常損耗まで借主負担にできるわけではありません。
ペット可にすると決めたら、次は条件の具体化です。ここは契約で決めておける部分が広く、最も手を入れる価値のあるところです。
借主は「契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い」使用しなければなりません(民法594条1項。同616条が賃貸借に準用しています)。契約でペットの種類・頭数・飼育の方法を定めれば、それが守るべき用法になります。逆に言えば、契約に書いていない事柄は、あとから「常識の範囲で」と主張しても根拠が弱くなります。
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契約で決めておく項目
イエリテの実務から
当社へ寄せられたご相談では、契約のときに聞いていた話と実際の飼育が違っていた、というケースがありました。頭数が増えていた、屋内で飼う前提だったものが屋外中心になっていた、といった食い違いです。入居中に判明したときに条件を確認できるのは、契約書に書いてあった項目だけでした。曖昧にしたまま募集を始めると、この場面で打つ手が減ります。
条件に反する飼育が分かった場合、貸主ができるのは、まず契約に基づく是正の申し入れです。定めた飼育条件は契約上の用法ですから、それに反する状態は債務不履行として扱われます。
そのうえで契約の解除を考える場面もありますが、ここは慎重な判断が必要です。
使用貸借には無断使用による無催告解除の規定がありますが、民法616条が賃貸借に準用しているのは594条の第1項だけです。「無断で飼っていたのだから、すぐ出ていってもらう」とは扱えません。無催告解除の特約を置いている場合でも、違反の程度によっては解除が認められないことがあります。
もっとも、催告が常に必要というわけでもありません。民法542条には、履行が不能である場合や、債務者が履行を拒絶する意思を明確に表示した場合など、催告をせずに解除できる例外が定められています。ペットの飼育条件に違反した場合に解除できるかどうかは、違反の内容・継続性・是正の状況を踏まえ、信頼関係が破壊されたといえるかを含めて個別に判断されます。解除を急ぐより、是正を求めた経緯を記録として残しておくほうが、後の判断材料になります。
なお、ガイドラインの別表でも、賃貸物件でのペットの飼育が禁じられている場合、飼育は用法違反にあたるものと考えられるとされています。
現実的な進め方は、飼育の状況を記録し、契約条項を示して是正を求め、応じない場合に次の手段を検討する、という順番になります。解除まで進むかどうかは個別の事情によって判断が分かれるため、弁護士へ相談する段階を早めに見込んでおくと安全です。
他の入居者や近隣から苦情が入った場合も、貸主が使えるのは契約上の条項です。迷惑行為の禁止や飼育の方法を定めていれば、その履行を求めることになります。
行政のルートとしては、動物の愛護及び管理に関する法律25条が、騒音や悪臭の発生などで周辺の生活環境が損なわれている事態に対し、都道府県知事が指導・助言、勧告、命令を行えることを定めています。措置を行うのは知事であり、貸主が直接この規定で飼育をやめさせられるわけではありません。同法7条は飼い主の責務を定めていますが、こちらは努力義務が中心です。
同じ「貸している物件」でも、ペット可を自分だけで決められるかどうかは変わります。
| 物件の形 | 判断のしかた |
|---|---|
| 戸建て | 貸主の判断で条件を決められる。庭・駐車スペースの使い方や近隣との距離を確認する |
| 一棟のアパート | 既存入居者との関係を確認する。使用細則を設けているかどうかで、変更の進め方が変わる |
| 分譲マンションの一室 | 管理規約・使用細則の内容を先に確認する。規約で禁止されていれば、オーナーの判断だけでは実質的にペット可にできない |
分譲マンションの一室で注意したいのは、規約の効力が借主にも及ぶ点です。建物の区分所有等に関する法律46条2項は、占有者は建物等の使用方法について、区分所有者が規約や集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負うと定めています。国土交通省がモデルとして示しているマンション標準管理規約のコメントでも、ペット飼育を認めるかどうかは規約で定めるべき事項とされ、認める場合には種類・数の限定や届出、違反者への措置などを定める必要があるとされています。標準管理規約はあくまでモデルであり、実際に効力を持つのは、そのマンションの現行の管理規約と使用細則です。分譲マンションを貸す場合の確認事項は住宅ローン返済中の分譲マンションを貸すでも扱っています。規約に反する飼育が分かったときに、まず動くのが誰で、管理組合側と賃貸管理側のどちらへ伝えるのかは、分譲マンションを貸すと管理会社は二つ?管理組合側と賃貸管理会社の役割の違いで扱っています。
ここで整理しておきたいのは、管理規約と賃貸借契約の関係です。オーナーと借主が賃貸借契約でペット可と合意しても、それだけで借主が管理規約上のペット禁止から解放されるわけではありません。借主は占有者として、使用方法について区分所有者と同一の義務を負うからです。規約や使用細則で禁止されている場合、オーナー単独の判断で実質的にペット可へ変更することはできません。
すでに入居者がいる物件では、「誰に対して何を認めるのか」で進め方が変わります。
A:既存入居者本人に、新たにペットの飼育を認める場合。これはその入居者との契約条件を変更する話です。種類・大きさ・頭数、共用部分の利用方法、退去時の原状回復、苦情が出たときの是正といった飼育条件を決め、口頭ではなく覚書や変更合意書として書面に残しておきます。ここを口頭で済ませると、後から条件を確認できなくなります。
B:既存入居者はそのままで、空室・新規募集の分だけペット可にする場合。この場合、既存入居者の賃貸借契約そのものを当然に変更する必要が生じるわけではありません。既存入居者全員の同意が法律上必ず必要になる、というものでもありません。ただし建物全体の使用細則、共用部分の使い方、鳴き声や臭いへの対応、ペットを飼わない入居者とのトラブル防止、新規契約側の飼育条件を整理してから募集に進みます。

犬を飼う入居者を受け入れる場合、飼い主には行政上の義務があります。犬の所有者は、取得した日(生後90日以内の犬は生後90日を経過した日)から30日以内に市町村長へ登録を申請し、交付された鑑札を犬に着けておかなければなりません(狂犬病予防法4条)。あわせて、狂犬病の予防注射を毎年1回受けさせ、注射済票を着けておく義務があります(同5条)。南城市の窓口は生活環境課で、手数料や集合注射の日程は市が案内していますので、最新の内容は市へご確認ください。
義務を負うのは飼い主であり貸主ではありませんが、入居時に登録と注射済票を確認する取り決めにしておくと、条件の管理がしやすくなります。猫にはこの登録・注射の義務はありません。
多頭飼育については、沖縄県動物の愛護及び管理に関する条例(令和7年7月1日施行)に届出の制度があります。原則として、生後90日を超える犬・猫を合計10頭以上、一つの飼養施設で飼養・保管することになったときは、30日以内に知事へ届け出る必要があります(同条例11条)。第一種動物取扱業者・第二種動物取扱業者など、一部の者は対象から外れます。届け出た内容に変更があったときや飼養をやめたときにも届出が必要です(同12条)。条例には、逸走の防止や繁殖の制限といった遵守事項も定められています。
この10頭という数字は、行政上の届出制度として知っておきたい基準です。賃貸借契約で認める頭数は、これとは別に決めます。住戸の広さ、犬や猫の種類と大きさ、共用部分の有無、近隣との距離を踏まえて判断することになり、10頭未満なら賃貸住宅として問題がない、という意味ではありません。
沖縄では台風のたびに戸締まりや飛来物への備えが必要になります。屋外で飼育している場合、台風時にどうするかを入居時に取り決めておくと、当日の連絡でもめにくくなります。ペットの災害への備えについては南城市も案内を公表していますので、入居者へ案内する材料として確認しておくとよいでしょう。
順番を決めておくと、抜けが出にくくなります。
イエリテの実務から
当社で募集をお手伝いする場合も、この順番で条件を固めてから掲載に進みます。掲載を先に出してしまうと、問い合わせが入ってから条件を詰めることになり、決めきれないまま契約日を迎えることがありました。
ペット可は、空室を埋めるための一手であると同時に、退去までの費用と手間の設計を伴う判断です。
最初に手を付けるのは、いま使っている契約書を開いて、飼育に関する条項と原状回復の条項がどう書かれているかを確認することです。ここが分かると、ペット可にするかどうかの判断に、何を足せばよいかが見えてきます。
ここまでで触れきれなかった場面について、貸主からいただくことのあるご質問をまとめました。
その入居者との契約条件を変更する話になります。本文のAのケースにあたり、認める場合は口頭ではなく覚書や変更合意書として、種類・大きさ・頭数、共用部分の利用方法、退去時の原状回復、苦情が出たときの是正まで書面に残します。同じ建物に他の入居者がいる場合は、その方々との契約や使用細則との関係を確認してからにしてください。分譲マンションの一室であれば、管理規約で飼育が禁じられていないかが先の確認事項になります。
確実とはいえません。定額の条項も、必要性や合理性、借主が内容を認識して合意したかどうかによって有効性が判断されます(国土交通省 原状回復ガイドラインQ&A)。消費者契約にあたる場合は、内容によって無効とされることもあります。金額と対象を契約書に具体的に書き、契約時に説明して合意を取る形にしておくことが前提になります。
契約で定めれば可能です。種類ごとに頭数や飼育方法を分けて書くこともできます。犬には登録と狂犬病予防注射の義務があるため、確認する項目が猫とは異なります。ただし条件を細かくするほど、募集時の説明と契約書の記載を一致させる手間が増えますので、管理できる範囲で決めるのが現実的です。
契約している商品によって異なります。保証や補償の範囲は各社の約款で決まっており、ペットによる汚損・破損の扱いも一律ではありません。加入している商品の内容を、保証会社・保険会社へ直接ご確認ください。賃貸で確認しておきたい保険の考え方は賃貸物件の火災保険で整理しています。
新しく募集する契約の条件としてなら、貸主が設定できます。すでに入居中の方の家賃を、ペット可への変更を理由に一方的に上げることはできません。入居中の家賃の変更は、合意によるか、借地借家法に定められた手続きによることになります。契約更新の場面でできることは賃貸契約の更新で貸主ができることで整理しています。
この記事は、2026年8月29日時点の法令・公的資料にもとづく一般的な情報の整理です。個別の契約における原状回復費用の負担区分、特約の有効性、条件違反を理由とする契約解除の可否は、契約書の内容と個々の事情によって判断が分かれます。具体的な判断が必要な場合は、弁護士など専門家へご相談ください。管理規約の内容、自治体の手続きや手数料、条例の運用は、対象のマンション・行政窓口へ直接ご確認ください。法令・制度は改正される場合がありますので、手続きの前に最新の情報をご確認ください。
ペット可にするかどうかで最後に残るのは、その物件の状態と周辺の入居需要から見て条件が見合うか、いまの契約書の飼育条項と原状回復条項をどう直すかという、物件ごとの判断です。当社では、募集条件と契約条項の確認すべき点を一緒に整理し、弁護士など専門家へ確認したほうがよい部分を切り分けるところからお手伝いします。貸すかどうかを決めていない段階でも構いません。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
売却だけでなく、賃貸や管理を含めた活用方法についてもご相談いただけます。