

転勤や移住で自宅を空けることになりました。あるいは、相続した実家に、家具も家電も仏壇もそのまま残っています。貸すことは考えているものの、家財を全部運び出す時間も費用もない——南城市周辺では、そうしたご相談をいただきます。
結論から言えば、家財を残したまま貸すことはできます。ただし、残す物を「設備として貸すのか」「残置物として置いていくのか」を契約で決めておかないと、入居中の修理費や退去時の精算で話がこじれます。当社へ寄せられるご相談でも、この決め方があいまいなまま貸し始めたことが原因で、後から確認が必要になったケースがありました。
法令で決まっている部分と、契約で自由に決められる部分は違います。その境目が分かると、片付けをどこまでやるかも判断しやすくなります。
なお、賃貸の話で「残置物」と検索すると、入居者が亡くなったときの荷物の処理に関する情報も多く出てきます。この記事で扱うのは、それとは別の貸主が最初から置いていく家財の話です。
執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年8月28日
情報確認日:2026年8月28日
この記事の目次
賃貸借は、「ある物の使用及び収益を相手方にさせること」を約束する契約です(民法601条)。何をどの範囲で貸すかは、当事者の合意で決まります。家財が残っていると貸せない、という決まりは法令にはありません。
一方で、「設備」「残置物」という区別そのものは、法律の条文に定義があるわけではありません。民法にも借地借家法にも「残置物」という定義規定は見当たらず、実務上の呼び分けです。呼び名を決めれば責任まで自動的に決まるわけではありません。何を賃貸の対象として引き渡すのか、募集のときにどう説明したのか、修理・交換・撤去・処分を誰が負担するのかを、契約で具体的に決めておくことが実質的な備えになります。
相続した家の家財では、仕分けの前に確認しておきたいことがあります。その物を貸す・残す・処分する権限を、自分が持っているかどうかです。
相続人が複数いる場合、相続財産は相続人の共有に属します(民法898条1項)。遺産分割が済んでいなければ、家財も共有のままである場合があります。また、家の中の物がすべて故人の所有とは限らず、配偶者や同居していた親族の持ち物が混ざっていることもあります。
相続人が複数いる、遺産分割が済んでいない、誰の所有物か分からない物があるといった場合には、処分や第三者への使用許可を一人で決めないようにしてください。仏壇など祭祀に関わる物は、これとは別の承継ルールが問題になることがあります(後述)。家財の片付け方そのものは、相続した家の家財処分の進め方で扱っています。
実務では設備・残置物と呼び分けますが、法令に定義された二分類ではありません。次の表は、契約でどう決めることが多いかという一般的な整理例です。呼び名そのものが法的な性質を決めるわけではなく、契約内容と実際の貸し方をそろえておくことが重要になります。
| 設備として貸す場合の整理例 | 残置物として置いていく場合の整理例 | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 賃貸の対象として引き渡す物と整理することが多い | 使ってもよいが、賃貸の対象には含めないと整理することが多い |
| 故障したとき | 貸主が修理・交換を検討する(民法606条1項) | 契約の定め方によっては貸主が対応しない |
| 退去時 | 貸主に返してもらう | 撤去するか残すかを契約で決めておく |
| 募集時の説明 | 設備として案内できる | 「残置物」と明示して案内する |
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います(民法606条1項本文)。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由で修繕が必要になったときは、この限りではありません(同項ただし書)。
ここで押さえておきたいのは、この修繕義務が及ぶ範囲は「賃貸物」、つまり何を使用収益の対象として貸したかで決まる、という点です。エアコンを設備として貸せば、貸主が修理を検討する対象になります。残置物として置いていくのであれば、その旨と負担の取り決めを契約に書き分けておきます。
修繕の負担について、契約で具体的な分担を定めることはあります。国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)でも、貸主は借主が物件を使用するために必要な修繕を行い、借主の責めに帰すべき事由で必要になった費用は借主が負担する、という形で整理されています(同契約書9条)。ただし、どこまでの取り決めが有効かは内容によります。
書けば何でも通るわけではありません。入居者が消費者である場合、法令の適用による場合に比べて消費者の権利を制限し、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされます(消費者契約法10条)。建物本体の使用に必要な修繕まで全面的に免除するような書き方は、内容によっては無効となる場合があります。
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契約書の書き方で注意したいこと
「残置物につき一切の責任を負わない」という一文だけでは足りません。対象の物を特定したうえで、故障時の負担と退去時の扱いまで書き分けておく必要があります。生活に不可欠な設備まで免責の対象に含める書き方は、内容によっては無効となる場合があります。
また、貸主が修繕しないままでいると、入居者側が自分で修繕できる場面があります。修繕が必要な旨を通知したのに相当の期間内に貸主が修繕しないとき、または急迫の事情があるときです(民法607条の2)。県外にお住まいで連絡が付きにくいオーナーの場合、この点は現実的なリスクになります。

エアコン・給湯器・照明・カーテンレールのように、生活に直結する物ほど、決め方をはっきりさせておく必要があります。判断の目安は次のとおりです。
「不要なら処分してよい」とだけ伝えると、所有権が誰にあるのか、費用を誰が持つのかが宙に浮きます。残す物ごとに、次の5点を決めておきます。
処分を認める場合でも、「自由に捨ててよい」と伝えるのは避けてください。エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機などは家電リサイクル法の対象で、自治体の粗大ごみとしては出せないなど、処分の手順が決まっているためです(後述)。
どちらに整理する場合でも、引渡し時点の状態を写真で残しておくことが、後の話し合いを短くします。当社が現地を確認する際も、残す物の型番・年式・動作状況を記録として残すようにしています。
イエリテの実務から
南城市内でお預かりした戸建てで、前の住まい手が使っていたエアコンや家具がそのまま残っていた例がありました。募集を始める前に、残す物を一つずつ確認して「設備として案内する物」「残置物として案内する物」「引渡し前に処分する物」に仕分けしています。この作業をしておくと、入居後に「これは直してもらえるのか」という問い合わせが来たときに、契約書と募集資料を見れば答えられる状態になります。
「家具は片付けるが、物置だけは荷物を置かせてほしい」というご相談もあります。
貸す範囲は契約で決まりますから、建物の一部(施錠する物置、特定の押入れなど)を賃貸の対象から除いて貸すこと自体は、契約で定めることができます。ただし、次の点をあいまいにしたまま始めると、入居後に食い違いが起きます。
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一部を貸さない場合に決めておくこと
ここで誤解しやすいのが、立入りです。物置を賃貸の対象から外し、契約書に立入りの頻度を書いたとしても、貸主がいつでも自由に入れるようになるわけではありません。国土交通省の賃貸住宅標準契約書では、貸主が物件の管理上特に必要があるときでも、あらかじめ借主の承諾を得て立ち入る建て付けになっています(同契約書16条1項)。火災の延焼防止など緊急の必要がある場合は例外とされ、この場合も不在時に立ち入ったときは借主へ通知するとされています(同条4項)。
賃貸の対象から外した物置へ行くために、玄関・廊下・居室など入居者が使う部分を通る必要がある場合は、原則として事前に日時を調整し、承諾を得たうえで立ち入ります。この進め方も含めて契約書に書いておくと、お互いに動きやすくなります。
沖縄では、仏壇(トートーメー)をどうするかが実家の扱いを決める大きな要素になります。
ここは、ほかの家財と同じようには決められません。仏壇などが民法897条にいう「祭具」に当たる場合には、通常の相続財産とは異なる承継のルールが問題になります。同条は、系譜・祭具・墳墓の所有権について、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると定め、被相続人の指定があるときはその者が承継するとしています(897条1項)。慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めます(同条2項)。
すべての仏壇・神棚が当然に祭具に当たると決まっているわけではありません。ただ、貸家に残す・別の場所へ移す・入居者に処分を認めるといった判断をする前に、誰が祭祀を承継しているのか、誰に判断の権限があるのかを確認しておきたいところです。相続人の間で認識が分かれている場合は、この確認を先に済ませてください。判断がつかない場合は弁護士へご相談ください。
権限の所在がはっきりしたうえでの契約の整理は、前の項目と同じになります。仏壇を置いた部屋を賃貸の対象から外すのか、部屋ごと貸したうえで仏壇だけを残置物とするのかを決め、募集の段階で入居希望者へ伝えておきます。入居後に初めて知らされる形になると、入居者の心理的な受け止めは大きく変わります。
親族間で移設や継承の話がまとまっていない場合は、貸し出しの時期そのものを見直すことも検討します。判断が難しい場合は、募集を始める前にご相談ください。
家財を残す判断で、最も揉めやすいのが退去時です。当社へ寄せられるご相談でも、この場面での確認が必要になることがありました。
入居者は、借りた後に生じた損傷について原状回復義務を負います。ただし、通常の使用によって生じた損耗と経年変化は除かれ、入居者の責めに帰することができない事由による損傷も対象外です(民法621条)。入居時の状態に完全に戻す義務がある、という意味ではありません。
国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)も参考になります。これは民間賃貸住宅を想定した指針で、契約締結時の参考という位置づけです。法的な強制力を持つ規範ではありませんが、設備等の負担を考えるときに経過年数を考慮する、という考え方が示されています。
賃貸借では、使用貸借の規定のうち民法599条1項・2項が準用されます(民法622条)。ここで収去の対象とされているのは「借用物を受け取った後にこれに附属させた物」です。
つまり、条文が想定しているのは入居者が後から付け足した物であり、貸主が引渡し前から置いていた家財は、入居者の収去義務の対象とは整理されないと考えられます。「残置物も退去時に入居者が処分する」という扱いにしたい場合は、契約でその旨を合意しておきます。
逆に、入居者が置いていった物を貸主が勝手に処分してよいわけでもありません。この点は明渡しの手続きに関わる別の問題ですので、判断が難しい場合は弁護士へご相談ください。
入居者が貸主の同意を得て建物に付加した造作(畳・建具など)については、期間の満了または解約の申入れによって契約が終了するときに、時価で買い取るよう請求できる権利があります(借地借家法33条1項)。
この造作買取請求権は、借地借家法37条が挙げる強行規定に含まれていないため、契約で排除する特約を定めることができるとされています。エアコンが「造作」に当たるかどうかは設置の仕方によって変わりますが、入居者が自分で設置する可能性がある物件では、同意の求め方と退去時の扱いを契約段階で決めておく方が安全です。
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判断のポイント
退去時の話し合いは、「誰が置いた物か」と「契約で何と書いてあるか」の2つで決まります。貸主が残した物と入居者が持ち込んだ物では、条文上の扱いがそもそも違います。貸す前に一覧を作り、契約書と募集資料で同じ呼び方をそろえておくことが、いちばん確実な備えになります。

残す物の扱いは、募集の段階から入居希望者へ伝えます。宅地建物取引業者が媒介・代理に入る場合、建物の貸借では「台所、浴室、便所その他の当該建物の設備の整備の状況」が重要事項説明の対象とされています(宅地建物取引業法35条1項14号、同法施行規則16条の4の3第7号)。
なお、オーナーが自分で直接貸す場合、宅建業法上の「宅地建物取引業」は、貸借については代理または媒介をする行為を指しています(同法2条2号)。自分で貸すこと自体に免許は要りませんが、その場合は説明の枠組みも自分で用意することになります。
一方で、「残置物」という言葉を広告に必ず書かなければならない、と定めた法令は確認できませんでした。設備と残置物の書き分けは、実務上の工夫です。だからこそ、募集資料と契約書で表現をそろえておく必要があります。
内覧では、残っている家財が判断材料になります。清掃と整理が行き届いていれば「使える物が付いている」と受け取られますが、使わない物が積まれたままだと、部屋の広さも掃除のしやすさも伝わりにくくなります。当社が募集をお預かりする場合も、残す物の見せ方は賃料条件と同じくらい丁寧に相談させていただいています。
処分すると決めた物は、貸し出しの前に片付けます。南城市では、粗大ごみは事前の電話申込みと処理券が必要で、1回の申込みは原則6個までとされています(南城市「ごみの出し方」、2026年8月28日確認)。まとめて処分する場合は、日程に余裕を持たせてください。
エアコン・テレビ・冷蔵庫・冷凍庫・洗濯機・衣類乾燥機は、家電リサイクル法の対象品目です(特定家庭用機器再商品化法施行令1条)。南城市の粗大ごみ収集では扱われず、販売店などでの対応になります。
なお、空き家を片付けて出る家財が家庭ごみとして出せるのか、事業系の扱いになるのかは、物の性状や排出の状況、自治体の運用によって異なります。量が多い場合や判断に迷う場合は、南城市の担当窓口へ確認してください。片付け全体の進め方は、相続した家の家財処分の進め方にまとめています。
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残置物・家財処分の業者を自分で探すのが不安な方へ
残す物と処分する物を分けたあと、処分の手配でつまずくことがあります。残置物・家財処分の業者選びについて、内容や地域に応じて、イエリテがお付き合いのある事業者をご紹介できる場合があります。
上がるとは限りません。家具や家電が付いていることを条件に含めて募集することはできますが、賃料が上がるかどうかは、周辺の募集状況や物件そのものの条件によって決まります。設備として貸す場合は、故障時の対応費用も見込んでおく必要があります。
書き方によっては通らない場合があります。修繕の負担について契約で分担を定めること自体はありますが、どこまで有効かは内容によります。入居者が消費者である場合、消費者契約法10条により無効となる場合があります。また、事業者の債務不履行によって消費者に生じた損害の賠償責任を全部免除する条項は、同法8条1項1号により無効とされています。「一切責任を負わない」という書き方はこの点でも問題になり得ますので、契約書の文言は宅建業者や専門家に確認することをお勧めします。
契約でどう定めたかによります。設備として貸していれば貸主が対応を検討する対象になり、残置物として明確に合意していれば別の整理になります。ただし、その物がなければ生活が成り立たない場合、契約の書き方だけで割り切れないことがあります。実際の対応は、契約書の記載と現在の状況を照らして判断することになります。
一律には決められません。生活にすぐ使える物が残っていることが決め手になる入居者もいますし、自分の家具を置きたい入居者には邪魔になります。募集する賃料帯と、想定する入居者像から逆算して決めるのが現実的です。
残すこと自体は可能です。ただし、将来自分で使う予定の物であれば、傷んだ場合の扱いを決めておく必要があります。契約期間や更新の考え方も含めて、貸し方そのものを設計しておくことをお勧めします。
家財を残したまま家を貸すことはできます。判断の中心にあるのは、片付けるかどうかではなく、残す物を契約でどう位置づけるかです。
残す物の仕分けは、契約書の文言だけの問題ではなく、募集条件や賃料の決め方ともつながっています。そもそも貸すか売るかを迷っている段階であれば、戸建て賃貸のメリット・デメリットから確認してみてください。貸すと決めた後は、火災保険の契約内容の切り替えも忘れずに確認しておきたい項目です。
この記事は、2026年8月28日時点で確認できた法令・公的資料をもとに一般的な情報を整理したものです。個別の契約内容や物件の状況によって結論が変わります。契約書の文言や法的な紛争については弁護士、税務については税理士など、それぞれの専門家へご確認ください。
家財の一つひとつをどちらに整理するかは、物件の状態・想定する入居者・オーナーご自身が将来その家をどうしたいかによって変わります。当社では、残す物と処分する物の仕分けの進め方をご案内し、募集条件と合わせて整理するお手伝いをしています。
残す物の仕分け方や、その状態で見込める家賃の目安を一緒に確認できます。片付けを始める前の段階でも、まだ貸すと決めていない段階でもご相談いただけます。南城市・八重瀬町・与那原町など沖縄県南部に対応しています。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
売却だけでなく、賃貸や管理を含めた活用方法についてもご相談いただけます。