

執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年08月23日
情報確認日:2026年08月24日
入居中の物件で「水漏れがある」「給湯器が動かない」と連絡が入ったとき、まず何をすればよいのか、修理費用は誰が払うのか、その場で判断できずに困った経験がある貸主は少なくないはずです。特に県外に住みながら物件を所有しているオーナーにとっては、現地をすぐに見に行けないぶん、電話一本でどこまで対応すべきか迷いやすい場面です。
当社へ寄せられるご相談でも、給水・排水設備の水漏れをきっかけに、修繕費用をどちらが負担するのかで話がまとまらなくなったケースがあります。まず被害を広げないための初期対応をどうするか、そのうえで修繕義務と費用負担がどう決まるのか、順に見ていきましょう。
この記事の目次

水漏れは時間が経つほど被害が広がりやすく、階下や隣室への被害、床・壁の腐食など、二次被害につながることがあります。連絡を受けたら、まず被害の状況(水が止まらないか、他の住戸に及んでいないか)を確認し、必要であれば入居者に止水栓や元栓を閉めてもらうなど、被害を広げないための初期対応を優先してください。
民法上、賃借人(入居者)は、賃借物に修繕が必要な状態になったときは、遅滞なくその旨を貸主へ通知しなければならないとされています。ただし、貸主がすでにその事実を知っているときは、この限りではありません(民法第615条)。入居者からの連絡は、この通知義務にもとづくものです。貸主の側も、保存に必要な行為(修繕のための立ち入りなど)を行おうとするときは、入居者はこれを拒めないとされています(民法第606条第2項)。
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」では、貸主が修繕を行う場合はあらかじめ入居者へ通知することとされています(第9条第2項)。一方、修繕などのため実際に室内へ立ち入る場合は、管理上特に必要な場合であっても、原則としてあらかじめ入居者の承諾を得る定めです(第16条第1項)。ただし、火災の延焼防止など緊急の必要がある場合は事前承諾なしで立ち入ることができ、入居者が不在だったときは事後に通知するとされています(同条第4項)。これは同契約書を採用している契約での定めであり、すべての契約に当然適用されるものではありませんが、緊急時の立ち入りに関する一般的な考え方として参考になります。
イエリテの実務から
当社へ寄せられるご相談では、給水・排水設備からの水漏れについて、入居者から「床が濡れている」「水が止まらない」といった連絡を受け、現地を確認したり、修理業者への打診・手配を代行したりすることがあります。こうしたご相談で感じるのは、緊急性の高い事象は、まず被害を広げないことを優先し、修繕費用を誰が負担するかの整理はそのあとで落ち着いて行うべきだということです。連絡を受けてすぐに動ける業者を事前に把握しておくと、いざというときの対応が早くなります。

民法第606条第1項は、貸主は賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うと定めています。ただし、その修繕が入居者の責めに帰すべき事由によって必要になったときは、この限りではないとされています。原則は貸主に修繕義務があり、入居者の使い方が原因で壊れた場合は例外にあたります。
どんな故障でも一律に貸主が直す義務があるわけではなく、また入居者が壊した場合に貸主が一切関与しなくてよいということでもありません。国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」は、修繕の実施主体を貸主とし、原因が入居者にある場合は費用を入居者負担とする構成を採っています(後述)。
相続や中古で取得した物件では、前の所有者や入居者が残した、いわゆる「残置物」のエアコンなどが設置されている場合があります。残置物だからといって当然に貸主の修繕義務から外れるわけではなく、契約上どのような設備として貸し付けているのか、修繕や交換の負担についてどのような特約・合意があるのかによって扱いが変わります。契約書の設備欄や特約を一度確認しておくとよいでしょう。
給湯器やエアコンなど、住宅の設備が経年劣化や寿命によって自然に故障した場合は、原則として貸主の負担になります。国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」に付属する修繕分担の考え方では、建物・設備等の自然的な劣化・損耗(経年変化)は貸主が負担すべき費用とされ、貸主負担の具体例として「設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)」が挙げられています。
一方、入居者の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用方法を超えるような使用による損耗は、入居者の負担になります。たとえば、エアコンから水漏れしているのに入居者が放置し、壁が腐食したようなケースは、入居者負担の例として挙げられています。震災など不可抗力による損耗や、上階の居住者など入居者と無関係な第三者がもたらした損耗については、入居者に負担を求めません。
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注意点
国土交通省の修繕分担の考え方は、もともと退去時の原状回復を対象とした資料に由来するもので、入居中の修繕対応そのものを直接定めたものではありません。費用負担の一般原則の考え方として、契約期間中の負担整理にも参考になる、という位置づけで捉えてください。
退去時にあらためて発生する原状回復費用の負担については、戸建てを貸すときの原状回復は誰の負担?貸主が知っておきたいルールで詳しく整理しています。
実際の故障が、経年劣化によるものか、入居者の使い方によるものかは、個別の事実によって判断が分かれます。設備の使用年数、日頃の手入れ状況、異常に気づいてからの対応などを踏まえて、貸主・入居者双方で状況を確認することが大切です。判断が難しい場合や、金額の大きい修繕については、管理会社や専門業者に状況を確認してもらうことをお勧めします。
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」(モデル契約書であり、使用は義務ではありません)は、契約期間中の修繕について、次のように定めています。
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標準契約書における修繕の定め
この定めでは、修繕の実施主体を貸主に一本化し、原因が入居者にある場合は費用だけを入居者に求める形になっています。民法の原則(入居者の帰責事由による修繕は貸主の義務から除かれる)とは組み立てが異なりますが、修繕を後回しにせず、建物の管理を続けやすくするための実務上の工夫といえます。ご自身の契約書がどのような定め方になっているか、一度確認しておくとよいでしょう。
修繕の負担区分は、特約によって変更できる場合があります。ただし、民法第90条(公序良俗)や消費者契約法の規定に反する内容は認められません。国土交通省の資料は、退去時の原状回復に関する特約を念頭に、例外的に入居者の負担とする際の考え方を示しています。具体的には、特約の必要性・合理的理由があること、入居者が通常の義務を超えた負担を負うことを認識していること、入居者がその負担に合意する意思表示をしていることの3点です。契約期間中の修繕負担特約に、この考え方がそのまま適用されると断定はできませんが、特約の有効性を考えるうえでの参考になります。特約の有効性は内容によって個別に判断されるため、「特約さえあれば必ず入居者負担にできる」と単純には言えません。契約書に特約を設ける場合は、内容を具体的に定めておくことが望まれます。
修繕の連絡を受けてから対応が遅れると、貸主にとって不利な展開につながることがあります。
まず、入居者が貸主へ修繕の必要を通知した(または貸主がそれを知った)にもかかわらず、貸主が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、あるいは急迫の事情があるときは、入居者が自ら修繕を行うことができます(民法第607条の2)。入居者が自ら修繕した場合、その修繕が貸主の負担に属する必要な費用であれば、入居者は貸主に対して直ちにその費用の償還を請求できます(民法第608条第1項)。貸主が対応をためらっている間に、想定外の業者・金額で修繕が進んでしまう可能性もあるということです。
また、設備故障や水漏れによって物件の一部が使用できなくなり、それが入居者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は使用できなくなった部分の割合に応じて当然に減額されます(民法第611条第1項)。入居者からの請求を待たずに効果が生じる点が特徴です。減額の具体的な割合や期間には明確な基準がないため、入居者との協議で決めることになります。残存する部分だけでは入居者が賃借の目的を達成できないほどの状態であれば、入居者は契約を解除することもできます(同条第2項)。
アパートなど集合住宅で、設備の故障による水漏れが階下や隣室に及んだ場合、貸主にとって金額の大きいリスクになり得ます。
民法第717条は、建物などの工作物の設置・保存に瑕疵(本来備えているべき安全性を欠いていること)があったことで他人に損害が生じたときの責任を定めています。まず占有者(入居中の入居者など)が責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときは、所有者が責任を負います。設備の経年劣化による水漏れは、この「設置又は保存の瑕疵」にあたる場合があり、その場合は最終的に所有者であるオーナーが責任を負うことがあります。一方、入居者の使い方(洗濯機のホースが外れていたなど)が原因の水漏れは、工作物の瑕疵ではなく、入居者自身の責任の問題になることもあり、実際にどちらにあたるかは個別の状況によって判断が分かれます。
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補足
こうしたリスクへの備えとして、個人賠償責任保険や施設賠償責任保険といった保険が話題になることがあります。日本損害保険協会は、個人賠償責任保険を「日常生活で誤って他人にケガをさせたり他人の物を壊したりして、法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を補償する保険」と説明しており、対象となる事故の例として「マンションの自宅の風呂場からの水漏れにより、階下の戸室の家財に損害を与えてしまった」場合を挙げています。また、施設賠償責任保険については「企業が所有・管理する施設の欠陥や従業員の業務の遂行等により、第三者に身体障害や財物損壊などの損害を与えた場合の賠償責任を補償する保険」と案内しています。いずれも、保険に加入していれば必ず保険金が支払われるわけではなく、補償範囲や免責の条件は保険会社・商品によって異なります。加入している保険で今回のような事故が補償の対象になるかは、保険会社・代理店へ確認することをお勧めします。
貸し出す前の火災保険・借家人賠償責任保険の見直しや、台風など風水害による被害への対応は、別記事で整理していますので、あわせてご確認ください。
機器の寿命による経年劣化での故障であれば、原則として貸主の負担です。ただし、入居者の使い方に原因がある場合は、入居者の負担になることもあります。契約書に修繕負担の定めがあれば、あわせて確認してください。
まずは電話で被害の状況を確認し、必要であれば止水栓・元栓を閉めてもらうなど、被害を広げない対応を入居者にお願いしてください。そのうえで、修理業者や管理会社へ連絡し、対応を進めます。県外にお住まいの場合は、緊急時にすぐ動ける業者や管理会社をあらかじめ確保しておくと安心です。
入居者が自ら修繕を行い、その費用を貸主へ請求できる場合があります(民法第607条の2・第608条第1項)。また、故障が入居者の責任によるものでなければ、設備が使えない間はその割合に応じて賃料が当然に減額されます(民法第611条第1項)。早めの対応が、貸主にとってのリスクを減らすことにつながります。
設備の故障(工作物の瑕疵)による水漏れであれば、最終的に所有者が責任を負う場合があります(民法第717条)。一方、入居者の使い方が原因の水漏れは、入居者自身の責任の問題になることもあります。どちらにあたるかは、個別の状況によって判断が分かれます。
この記事は、2026年8月23日時点の法令・公的資料にもとづく一般的な情報提供を目的としています。修繕負担の判断は契約書の内容や個別の状況によって異なり、保険の補償範囲は保険会社・商品によって異なります。具体的な判断は、契約している管理会社・保険会社、または弁護士へご確認ください。制度の内容は改正されることがあります。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
売却だけでなく、賃貸や管理を含めた活用方法についてもご相談いただけます。