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「今は人に貸しているから、売るなら退去してもらってからだろう」。賃貸中の戸建てやアパートの売却を考え始めた方から、そう思い込んだままご相談をいただくことがあります。
実際には、入居者がいる状態のまま売却する方法があります。これを「オーナーチェンジ」と呼びます。むしろ、退去を待つ・退去を求めるほうが、法律上の制約は大きくなります。
賃貸中の物件を売るときに、退去前後で何が変わるのか。引き渡しのときに買主へ引き継がれるもの、先に手元でそろえておきたい書類、税金で判断を誤りやすい点を順に確認していきます。
執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年8月4日
情報確認日:2026年8月4日
この記事の目次
賃貸中の物件は、入居者に退去してもらわなくても売却できます。買主が新しい大家(賃貸人)になり、入居者はそのまま住み続けます。
民法第605条の2第1項では、賃貸借の対抗要件を備えた不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転すると定められています(出典:e-Gov法令検索「民法」)。建物の賃貸借では、建物の引渡しを受けていることが対抗要件になります(借地借家法第31条)。
すでに入居して住んでいる方がいる場合、売買によって大家が変わっても、賃貸借契約は買主に引き継がれます。入居者の承諾を得る必要はありません。

一方で、新しい大家として家賃を請求するには、買主が所有権移転登記を済ませておく必要があります(民法第605条の2第3項)。決済と登記は同じ日に行うのが通常ですので、実務上は引き渡しの段取りの中で整理されます。
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オーナーチェンジとは
入居者がいる状態のまま、賃貸借契約ごと物件を売買することです。買主は自分で住むのではなく、家賃収入を目的に購入します。売り出す相手が変わるため、価格の見られ方も実需向けの売却とは変わります。
「更地にしてから売るか、そのまま売るか」は所有者が決められますが、「空室にしてから売るか」は同じようには決められません。契約の種類と、期間の定めの有無によって、終了までの手順が変わります。
期間の満了で終わらせるには、次の2つが必要です。
貸主から解約を申し入れた場合、申入れの日から6か月を経過することによって契約は終了します(借地借家法第27条第1項)。この場合も、解約の申入れに借地借家法第28条の正当の事由が必要です。
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通知を出せば退去してもらえる、ではありません
正当の事由は、大家と入居者それぞれが建物を使う必要性、これまでの経過、建物の状況、立退料などの申出を考慮して判断されます。売却したいという事情だけで当然に認められるものではありません。期間の定めがある場合もない場合も、通知や解約の申入れを出したことだけを理由に、退去を求められるわけではない点にご注意ください。
定期建物賃貸借(定期借家)は、法定の要件を満たしていれば更新がなく、期間の満了によって終了します。ただし、終了を入居者へ主張するための手順が別に定められています(借地借家法第38条)。
定期借家として有効に成立しているかどうかは、書面(または電磁的記録)による契約、事前の説明書面の交付といった要件を満たしているかで判断されます。要件を満たしていない場合は普通借家として扱われることがあり、この判断は法的な評価を伴います。契約書を見て迷ったときは、弁護士に契約書そのものを見せて、更新の有無と終了時期を確認してもらうのが確実です。制度の概要は国土交通省「定期建物賃貸借 Q&A」でも確認できます。
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契約書で先に確認すること
退去の見通しが立たないまま「空室になったら売る」と決めてしまうと、売却の時期そのものが不確定になります。賃貸中のまま売る方法と並べて比べたほうが、判断しやすくなります。

賃貸中の物件の売買では、建物と土地のほかに、賃貸借契約に伴う権利と義務が動きます。何が引き継がれ、何を精算するのかを整理しておくと、決済前後の混乱を避けられます。
| 項目 | 取り扱い |
|---|---|
| 賃貸借契約 | 買主が新しい賃貸人として引き継ぎます(民法第605条の2第1項) |
| 敷金の返還義務 | 買主が承継します(民法第605条の2第4項)。実務では、預かっている敷金相当額を売買代金から差し引くなどして精算します |
| 必要費・有益費の償還義務 | 敷金と同じく買主が承継します(民法第605条の2第4項) |
| 家賃 | 引き渡し日を基準に日割りで精算するのが一般的です |
| 固定資産税・都市計画税 | 引き渡し日を基準に日割りで精算するのが一般的です |
| 火災保険 | 売主は保険会社へ売却に伴う解約・変更の手続きを確認し、買主は引き渡し日に合わせて自身の火災保険を準備します。具体的な扱いは契約・約款によって異なります |
| 家賃保証会社との保証契約 | 所有者の変更にあたり、保証契約の承継、変更手続き、再契約または審査が必要になることがあります。取り扱いは保証会社へ確認します |
| 管理委託契約 | 自動では引き継がれません。継続するかを買主が決めます |
敷金は「預かっているお金」であり、売主の手元に残るお金ではありません。売却代金がそのまま手取りになるわけではない点は、資金計画を立てる前に押さえておきたいところです。
家賃をいつまで売主が受け取り、いつから買主が受け取るのかは、売買契約書で明確にしておきます。入居者への通知が遅れると旧口座への振込が続いてしまい、後から返す手間が生じます。

賃貸中の物件は、買主が「今いくらの家賃で、誰が住んでいて、どんな条件か」を確認したうえで購入を決めます。そのため、通常の売却よりも必要な書類が増えます。
イエリテの実務から
賃貸中の物件では、修繕や原状回復、家賃の滞納といった対応が続くうちに、契約書や入金の記録が手元と管理先に分かれてしまうことがあります。当社が賃貸物件の管理や問題対応にあたってきた経験からいうと、手続きが止まりやすいのは価格の話し合いではなく、この書類の確認です。売却を決めてから探し始めると、更新時の合意内容や敷金の残額がはっきりせず、買主へ示す資料が用意できないまま時間が過ぎていきます。売却を検討し始めた段階で、契約書と入金記録の2つだけでも先に確認しておくと、その後の進み方が変わります。
これらの書類には、入居者や連帯保証人の氏名・勤務先・連絡先など、個人を特定できる情報が含まれます。購入を検討している段階では、家賃・契約期間・敷金といった条件が分かる範囲にとどめ、個人を特定できる情報を必要以上に開示しないようにします。契約や引き渡しに必要な段階で、適切な方法により引き継ぎます。書類をそのまま不特定多数へ提示しないことも大切です。
滞納がある場合や、原状回復をめぐって入居者と話がついていない場合は、それを伏せたまま売らないことが大切です。買主はその状態を引き継ぐことになりますので、事実を伝えたうえで、価格や引き渡し条件に反映させます。
賃貸中の物件は買主が投資として判断しますので、「その建物がいくらか」ではなく「その家賃がいくら続くか」で価格が見られます。
投資用の判断で使われるのが利回りです。年間の家賃収入を購入価格で割ったものを表面利回りといい、固定資産税・保険料・管理費・修繕費などを差し引いて計算したものを実質利回りといいます。
価格には、次のような要素が影響します。
家賃を相場より高く設定していた物件は、買主が「更新時に下がるかもしれない」と見込んで評価することがあります。逆に、長く据え置いた家賃が相場より低い場合も、収益として評価されにくくなります。
空室にしてから売る場合は、自分で住みたい方に向けた相場での売却になります。どちらが手取りで有利かは、家賃水準・残りの契約期間・退去までにかかる期間と費用によって変わりますので、両方の想定で試算してから決めることをお勧めします。査定額の見方は不動産の売却査定とは?机上・訪問査定の違いと査定額の見方でも整理しています。
賃貸に出していた不動産の売却では、税金の扱いが自宅の売却と異なります。判断を誤りやすい点を3つ挙げます。
譲渡所得は、売却代金から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。このとき、建物の取得費は購入代金などの合計額から、所有期間中の減価償却費相当額を差し引く必要があります(出典:国税庁 No.3261 建物を売ったときの取得費)。減価償却の対象になるのは建物で、土地の取得費は減価償却されません。
貸付けに使っていた期間は業務用として、毎年の減価償却費の額を合計します。非業務用(自宅)の場合は耐用年数の1.5倍の年数に対応する償却率で計算しますので、同じ建物でも差し引かれる額が変わります。長く貸していた物件ほど建物の取得費が小さくなり、売却益が出やすくなります。
自宅を売ったときの3,000万円特別控除は、以前に住んでいた家屋についても、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限り、対象になります。その家屋は住まなくなった日以後、どのような用途に使用してもかまわないとされていますので、その間に人に貸していたことだけを理由に対象外になるわけではありません(出典:国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例)。
期限を過ぎてから売る場合は、この控除は使えません。「とりあえず貸しておいて、いずれ売る」と考えているときほど、この日付を先に確認しておきたいところです。
相続した家を売ったときの特例(被相続人の居住用財産を売ったときの特例)は、相続の時から譲渡の時まで、事業の用・貸付けの用・居住の用に供されていたことがないことが要件です(出典:国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)。
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貸す前に確認したい点
相続後に一度でも人に貸すと、空き家の特例は使えなくなります。控除額は最高3,000万円(令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は2,000万円)、適用期限は令和9年12月31日までの譲渡とされています。相続した家を「空けておくよりは貸そうか」と考えている段階で、税理士に売却の予定と合わせて相談しておくと、判断の順番を間違えずに済みます。
税額の試算や申告の要否は個別の事情で変わりますので、具体的な金額は税理士にご確認ください。譲渡所得の基本的な計算の考え方は不動産を売ったときにかかる税金は?譲渡所得税と3,000万円特別控除の基本で説明しています。
賃貸中の物件は、売らずに持ち続ける判断も現実的です。家賃が入っている以上、急いで手放す理由がない場合もあります。
判断の材料になるのは、次のような点です。
修繕費が続けて発生する時期に入っている、または管理に手が回らなくなっている場合は、売却を検討する理由になります。逆に、入居が安定していて手元資金にも余裕があるなら、持ち続けて様子を見る判断も成り立ちます。
ローンが残っている場合の進め方は住宅ローンが残っている家は売れる?南城市で確認したい売却の進め方、貸す・管理する側の考え方は南城市の空き家対策|売却・賃貸・管理で資産を守る方法もあわせてご覧ください。
検討している段階で、入居者へ一律に通知しなければならない法的な義務は、通常はありません。ただし、賃貸借契約や管理委託契約の内容、室内を確認する必要があるかどうかによって、対応は変わります。所有権が移った後は、新しい貸主・家賃の振込先・管理の連絡先を適切に通知します。通知が遅れると旧口座への入金が続きますので、通知の時期と方法を、売主・買主・管理会社であらかじめ決めておきます。
入居者が買主になることもできます。この場合は入居者が所有者になりますので、賃貸借契約は終了します。ただし、住宅ローンの利用可否や賃貸借の解約のタイミングを整理する必要がありますので、条件を書面で固めてから進めます。
売却自体はできます。ただし、サブリース会社との契約内容によって、買主が引き継ぐ条件や解約の可否が変わります。契約書の解約条項と残存期間を確認したうえで、買主に提示する必要があります。
売却できないわけではありません。ただし、滞納の状況は買主の判断に直接影響しますので、金額と経緯を正確に伝えます。契約の解除や明渡しの請求が必要な段階であれば、弁護士に相談したうえで、進め方を売買の条件に反映させます。
共有名義の不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の同意が必要です。自分の共有持分だけを売る場合は扱いが異なりますので、共有名義の不動産は売却できる?全員の同意が必要な場面と進め方で違いをご確認ください。

賃貸中の物件を売るときの要点を整理します。
最初に行うことは、賃貸借契約書と家賃の入金記録を手元で確認することです。この2つがそろうと、いつ売れる状態になるのか、いくらで評価されるのかの見通しが立てやすくなります。
この記事は、2026年8月4日時点の法令・税制にもとづく一般的な情報です。制度は改正される場合があり、個別の事情によって取り扱いが変わります。税額の判断は税理士、契約や明渡しに関する法的な判断は弁護士、登記は司法書士へご相談ください。
賃貸中の物件を売るか迷っている段階でも、ご相談いただけます
株式会社イエリテは、南城市を中心に、八重瀬町・南風原町・与那原町・豊見城市・糸満市・那覇市で不動産の売買と賃貸を承っています。賃貸中のまま売った場合と空室にしてから売った場合の見込みを比べたい、賃貸借契約書の内容からいつ売れる状態になるのかを整理したい、といったご相談にも対応します。売る・貸し続けるのどちらかを勧めることはいたしません。今の契約と建物の状態を一緒に確認したうえで、判断の材料をお出しします。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
売却だけでなく、賃貸や管理を含めた活用方法についてもご相談いただけます。