

査定額を聞いて、住宅ローンの残高に届かないと分かったとき、多くの方が最初に思うのは「これでは売れないのではないか」ということです。転勤が決まっている、離婚の話が進んでいる、返済の負担を見直したい。事情があって動かなければならないのに、売却という手段そのものが使えないように見えてしまいます。
ただ、ここで止まってしまう理由の多くは、「売れるかどうか」と「決済のときに完済して抵当権を外せるかどうか」が、同じ一つの問題として混ざっていることにあります。この2つを分けると、確認する順番と、いま決められることがはっきりします。
執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年8月29日
情報確認日:2026年8月29日
この記事の目次
抵当権が付いた不動産でも、売買契約自体が当然にできないわけではありません。ただし、抵当権は不動産そのものに付いている権利で、所有者が変わっても消えません。買主から見れば、あとから抵当権を実行されれば手に入れた家を失う立場になります。民法にも、買い受けた不動産に契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は抵当権消滅請求の手続が終わるまで代金の支払を拒むことができる、という定めがあります(出典:民法第577条第1項)。
そのため通常の住宅売買では、買主へ抵当権を残したまま引き渡さないよう、決済のときに抵当権を外せる段取りを組みます。具体的には、決済の場で売買代金と必要な自己資金等を充てて住宅ローンを完済し、金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受け取って、所有権移転の登記と抵当権抹消の登記を申請できる状態にします。
ここで金融機関が関わるのは、抵当権抹消の登記が売主だけで完結しないためです。権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者と登記義務者が共同でしなければならないと定められています(出典:不動産登記法第60条)。売主が何もできないという意味ではなく、抵当権を外すという抵当権者側の意思表示と、そのための書類が必要になるということです。
この段取りが組めるかどうかで、進め方は次の3つに分かれます。
不足額を用意できないから売れない、ということではありません。Cの場合でも、債権者が抵当権抹消に応じれば売却できる可能性があります。ただしCは、AやBのように売主側で段取りを決められる進め方ではなくなります。残債がある家の売却全体の流れは住宅ローンが残っている家は売れる?で扱っていますので、この記事はAからCのどこに当てはまるかの見極めと、Bへ持ち込むための不足額の埋め方に絞って見ていきます。

この記事では、次の2つを分けて扱います。混ざったままだと、AからCのどこに当てはまるかを見誤ります。
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2つの言葉の使い分け
この2つは一致しません。たとえば住宅ローンの残高が2,900万円、売却価格が3,000万円という場合、残高は売却価格の中に収まっているのでオーバーローンではありません。それでも、仲介手数料などの売却にかかる費用や、完済日までに発生する経過利息を差し引くと、決済の場では手元から足さないと完済できないことがあります。金額の大きさは物件と契約によって変わりますので、この例は考え方を示すためのものとお読みください。
売れるかどうかに直接関わるのは、後者の決済時の不足額です。これを出すために、次の3つを並べます。
ここで必要なのは、返済予定表に載っている元金の残高そのものではなく、決済の日に完済するための金額です。元金のほかに、完済日までに発生する経過利息などが加わります。ペアローンや2本立てで借りている場合は、すべての借入について確認します。
あわせて、借入先へ次の点を確認してください。全額繰上返済の申出には期限が設けられていることがあり、決済日の設定に直接影響します。
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借入先へ確認すること
これらの条件は金融機関やローン商品によって異なるため、一般的な日数や金額として当てはめることはできません。参考として、住宅金融支援機構は個人住宅融資の繰上返済について「繰り上げて返済される1か月前までに、ご返済中の金融機関(融資のお申込先の金融機関)にお申し出ください」「この手続に手数料はかかりません」と案内しています(出典:住宅金融支援機構「繰上返済(個人住宅融資の場合)」)。これは機構融資についての案内であり、お借入れの条件はご自身の借入先へ確認してください。
査定額は「その価格で必ず売れる金額」ではなく、売り出してから成約するまでの間に動くことがあります。査定額の見方は不動産の売却査定とは?で説明しています。オーバーローンが見込まれる場面では、成約価格が査定額を下回った場合に不足額がどこまで増えるかまで、あらかじめ幅を持って見ておきます。
仲介手数料、印紙税、抵当権抹消の登記費用、司法書士報酬などがかかります。内訳と支払う時期は不動産売却にかかる費用の内訳にまとめています。売却代金からこれらを差し引いた残りが返済に回せる金額です。
この3つを並べた結果が、「決済の場であといくら足りないのか」という一つの数字になります。ここまで出せば、話は「売れるか売れないか」ではなく「この金額を用意してBで進めるか、Cとして金融機関へ相談するか」に変わります。
イエリテの実務から
当社へ寄せられたご相談の中には、査定額をお伝えした段階で、はじめて残高に届かないことが分かったケースがあります。そのときは、まず返済予定表と諸費用の見込みを並べて不足額を一つの数字にするところから始めました。金額が具体的になると、ご家族の中で「用意できるのか、できないのか」という話ができるようになります。金額が分からないまま「たぶん無理だろう」と判断してしまうことが、いちばんもったいないと感じています。
ここからはBの話です。不足額が出た場合に、それを埋めて通常の売却として進めるための方法は次の3つです。どれも使えない場合が、次の章のCにあたります。
預貯金などから不足額を補う方法です。決済の日に、売却代金と自己資金を合わせて残債を完済し、抵当権を抹消します。手続きとしては最もはっきりしていますが、引渡し後の生活費や、次の住まいの初期費用まで使い切ってしまわないかを先に確認してください。
ご家族から資金を出してもらう方法です。この場合、その資金を贈与として受け取るのか、借りるのかを先に決めておきます。金額や取り決めの内容によって贈与税の課税関係が変わることがあり、これは税務の判断になりますので、税理士または所轄の税務署へご確認ください。当社は税務判断を行いません。
売却で残った債務と、新しい住まいの購入資金を合わせて借り入れられるローン商品を扱う金融機関があります。「住み替えローン」「買い替えローン」などと呼ばれるものです。
ただし、これは法律や公的制度で内容が定められたものではなく、民間の金融機関ごとの商品です。取り扱いの有無、借入の条件、審査の基準は金融機関によって異なり、一般化して説明できるものではありません。利用を検討する場合は、取引のある金融機関へ直接確認してください。売却と購入の日程を合わせる必要があるため、動き出す前の段階で相談しておくことをお勧めします。
イエリテの実務から
不足額を自己資金とご親族からの援助で埋めて、決済まで進んだご相談もありました。ご相談をいただいた時点では「売れないと思っていた」とお話しされていましたが、不足額が具体的になったことで、ご親族へ相談するという次の一手が出てきた形です。当社が行ったのは、査定と諸費用の見込みを整理して不足額を示すところまでで、資金をどう用意するかはご家族で決められた部分です。

Cの場合、自己資金などを足しても完済できないため、決済の場でローンが残ります。それでも抵当権を外してもらうには、金融機関(抵当権者)に抹消へ応じてもらう必要があります。これが任意売却と呼ばれる方法で、この協議が調えば、完済できない状態でも売却できる可能性があります。
住宅金融支援機構は、返済の継続が難しくなった場合の選択肢として融資住宅等の任意売却を案内しています。同機構の手続では、申出書の提出、物件調査・価格査定、売出価格の確認、媒介契約、販売活動と進み、購入希望者が現れた場合には「当方が抵当権抹消に応じることができるか審査します」、そのうえで「当方が抵当権抹消を承諾した後、お客さまと購入希望者との間で売買契約を締結していただきます」とされ、最後に「売買代金の決済、抵当権抹消書類の引き渡し等を行います」と説明されています。裁判所の手続である競売と比べると、自宅の引渡し時期についての調整がしやすいとも案内されています(出典:住宅金融支援機構「融資住宅等の任意売却」)。
順番に注目してください。通常の売却では売買契約のあとに完済の段取りを詰めますが、この手続では抹消の承諾が先にあり、そのあとで売買契約を結びます。売り出す価格も、債権者の確認を受けたうえで決めることになります。
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任意売却は自分では決められません
抵当権の抹消に応じるかどうかを判断するのは債権者です。売主が「任意売却で進めます」と決められる手続きではありません。上記の説明は住宅金融支援機構の融資に関するもので、民間の金融機関がどう対応するかは、その金融機関と保証会社の判断によります。
滞納が始まったあとの流れ、保証会社による代位弁済、競売との関係は住宅ローンが払えないとどうなる?で詳しく扱っています。この記事の読者の方の多くは、まだそこまで進んでいない段階だと思います。その段階でできることは、次の章の内容です。
誤解されやすいところなので、はっきり書きます。任意売却をしただけで、残った債務が自動的に消えるわけではありません。
抵当権は債権を担保するための権利であり、担保が外れることと、借りたお金の返済義務がなくなることは別です。任意売却で抵当権を抹消してもらえた場合でも、返済しきれなかった分は担保のない債務として原則そのまま残ります。その後の返済条件や債務の処理がどうなるかは、債権者との協議や、個別の法的手続によって変わります。住宅金融支援機構も、残債務があることを前提に「お客さまの残債務の状況等により延滞損害金減額のご相談に応じられる場合があります」と案内しています。
「売れば終わる」と考えて売却を進めると、引渡し後に想定していなかった返済が残ります。売却後にいくら残り、それをどう返していくのかまで含めて、売却するかどうかを判断してください。
まだ返済を続けている段階と、滞納が続いた後とでは、取れる手段が変わります。
期限の利益、つまり「分割で返していける」という約束については、民法第137条が破産手続開始の決定を受けたときなど3つの場合を定めています。ただし、返済の滞納そのものは、この条文が定める場合には含まれていません。実際に滞納で一括請求へ進むかどうかは、ローン契約に置かれた期限の利益喪失の条項によります。何回の滞納でどうなるかは契約ごとに違いますので、お手元の契約書の該当条項を確認してください。
滞納が続いて期限の利益を失うと、残債の一括請求や競売の手続きへ進む場合があります。そこまで進むと、売り出す価格も引渡しの時期も、自分で決められる範囲が狭まります。まだ返済を続けられている今のうちに、残高・査定額・諸費用の3つを把握しておくことには、それだけで意味があります。
離婚に伴う売却では、住宅ローンの名義と持分の扱いが問題になります。
まず、離婚の合意だけでは、住宅ローンの債務者や連帯保証人の立場は変わりません。債務者を交代させる免責的債務引受は、債権者と引受人の契約によるか、債務者と引受人の契約に債権者が承諾を与えることによって行うと定められています(民法第472条第2項・第3項)。いずれの方法でも債権者である金融機関が関わることになり、当事者間の取り決めだけで完結するものではありません。連帯保証から抜けることについても同じで、保証契約の相手方である金融機関の同意が必要です。
「財産分与でこの家は相手が引き取るから、自分のローンも保証も関係なくなる」という理解のまま離婚を進めると、後になって請求を受ける立場のままだったと分かることがあります。金融機関がどう扱うかを、離婚の条件を固める前に確認してください。
物件が夫婦の共有名義になっている場合は、売却に共有者全員の関与が必要です。この点は共有名義の不動産は売却できる?で扱っています。権利関係や離婚条件そのものの判断は弁護士の領域ですので、争いがある場合は早い段階で相談されることをお勧めします。
先に、混同しやすい点をはっきりさせておきます。オーバーローンであることと、税務上の譲渡損失が出ることは同じ意味ではありません。税務上の譲渡所得は、売った金額と買ったときの金額を単純に比べるのではなく、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。しかも建物の取得費は「建物の購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引く」ことになっているため、購入時の代金がそのまま取得費になるわけではありません(出典:国税庁タックスアンサー No.3202、No.3261)。決済のときに足りない金額と、税務上の損失の金額は、別々に計算される別の数字です。
そのうえで、税務上の譲渡損失が生じた場合には、一定の要件を満たすと、その損失を給与などほかの所得と相殺し、さらに翌年以降へ繰り越せる特例が設けられています。住み替えを伴わない場合の特例では、税務上の譲渡損失が生じていることに加えて、売却価額が一定の住宅ローン残高を下回っていること、つまりオーバーローンであることも要件の一つとされています(出典:国税庁タックスアンサー No.3390)。
一方、買い換える場合の特例は要件の組み立てが異なり、売った家がオーバーローンであることは条件になっていません。代わりに、新しい住まい側の住宅ローンについての要件が置かれています(出典:国税庁タックスアンサー No.3370)。2つの特例は別のものですので、混同しないようにしてください。
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適用期限は資料によって表示が異なります
国土交通省の現行の案内では、買換えの場合・買換えを伴わない場合のいずれの繰越控除についても「適用期限:令和9年12月31日」とされています。令和8年度税制改正の関連税制法は令和8年3月31日に国会で成立しています。一方、国税庁のタックスアンサーNo.3390・No.3370は令和7年4月1日現在の法令等にもとづく内容で、令和7年12月31日までという表示が残っています(2026年8月29日確認)。申告の際は、国税庁の最新の情報を確認するか、税理士へご相談ください。
要件と申告の手続きについては不動産を売って損が出たら税金はどうなる?で扱っています。
完済できるかどうかで扱いが変わります。自己資金などを合わせて決済の日に完済できるのであれば(AまたはB)、通常の売却として進められます。完済できない場合(C)は、抵当権を外してもらう協議が前提になるため、金融機関に相談しないまま決済まで進めることはできません。いずれの場合も、完済に必要な額、繰上返済の申出期限、抹消書類の受け取り方を確認する必要がありますので、早い段階で借入先へ連絡しておくほうが進めやすくなります。
通常の住宅売買では想定されていません。抵当権が残ったままの購入は、買主が競売のリスクを引き受けることを意味します。民法にも、契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときに買主が代金の支払を拒むことができる旨の定めがあり、買主が住宅ローンを利用する場合は、融資する金融機関の側も抵当権が付いたままの状態を通常は認めません。抵当権を外す段取りは、売主側で先に整理しておく問題だとお考えください。
分からない状態のままご相談いただいて構いません。完済に必要な額の確認と査定、諸費用の見込みを並べる作業が最初の一歩ですので、その材料を集めるところからで大丈夫です。金額が確定していないことは、相談を先延ばしにする理由にはなりません。
残高との比較と、税金の計算は別のものです。税務上の譲渡所得は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算し、建物の取得費は所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて求めます。ローン残高は、この計算そのものには関係しません。残高を上回る価格で売れた場合でも譲渡損失になることがあり、逆に、オーバーローンでも税務上は利益が出ることがあります。ご自身の場合の計算は税理士または所轄の税務署へご確認ください。
住宅ローンの契約内容を先に確認する必要があります。住宅ローンは自ら居住することを前提とした資金であることが一般的で、賃貸に出す場合の取り扱いは金融機関や契約によって異なります。無断で賃貸に出すのではなく、借入先へ確認してください。貸した場合の家賃が返済額を上回るかどうかも、別途の試算が必要です。
今回確認した範囲では、県や市の固有の支援制度は見つかりませんでした。返済の見直しについては、まず借入先の金融機関の相談窓口へご相談ください。制度の有無は変わることがありますので、必要に応じて窓口へ直接お問い合わせください。
住宅ローンの残高に売却価格が届かない家でも、売ること自体はできます。判断が止まってしまうのは、「売れるかどうか」と「決済のときに完済して抵当権を外せるかどうか」が一つの問題として混ざっているためです。
分かれ目は、決済の場でローンを完済し、抵当権を外す段取りを組めるかどうかです。売却代金だけで完済できるならA、自己資金などを足して完済できるならBで、どちらも通常の売却として進みます。足しても完済できない場合はCとなり、金融機関へ抵当権抹消に応じてもらえるかを相談することになります。Cでも売却できる可能性はありますが、応じるかどうかは債権者の判断で、売出価格や契約の順番も債権者の確認を前提に進みます。そして、いずれの方法でも、返しきれなかった債務は原則として残ります。
次に行うこととしては、借入先へ決済予定日で完済する場合の必要額と繰上返済の申出期限を確認し、査定を受け、売却にかかる費用の見込みを並べて、決済時の不足額を一つの数字にしてください。そのうえで、その金額を用意できるかをご家族で話し合い、難しければ借入先へ早めに相談します。滞納が始まる前であれば、売り出す価格も時期も、まだご自身で決められる範囲にあります。
※法令・税制は変更されることがあります。本記事は2026年8月29日時点で確認した内容です。譲渡損失の特例の適用期限と詳細な要件は、本記事では扱っていません。国税庁のタックスアンサーには令和7年4月1日現在の内容が表示されているため、申告の際は最新の情報をご確認ください。
この記事は一般的な情報を整理したものであり、個別のご事情についての法的・税務的な判断を示すものではありません。税金の判断と申告は税理士、権利関係や離婚に伴う争いは弁護士、登記手続きは司法書士が扱う領域です。住宅ローンの取り扱い、任意売却への対応、住み替え時の借入の可否は、借入先の金融機関の判断によります。実際のご判断にあたっては、それぞれの専門家および金融機関へご確認ください。
不足額がいくらになるかは、査定額・ローン残高・売却にかかる費用の3つを並べてみるまで分かりません。当社では、南城市および沖縄県南部の物件について査定と費用の見込みを整理し、いま足りない金額を具体的な数字にするところからお手伝いしています。売ると決めていない段階でも構いません。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
査定だけのご相談でも構いません。現在の状況やご希望を丁寧にお伺いします。