

親から引き継いだアパートが築30年を過ぎた。空室が少しずつ増えて、修繕の相談も届くようになった。売るほどの決心はつかないけれど、このまま持っていていいのかは分からない——そういう状態でご相談に来られる方がいます。
このとき困るのは、判断材料が「築何年か」しかないことです。築年数そのものは、貸せるかどうかも売れるかどうかも決めません。決めているのは、その築年数が税金・建物の書類・入居者との契約・出口の選び方にどう効いているかのほうです。
持ち続けるか手放すかを決める前に、いま手元で確認しておける6つのことを順番に見ていきます。収支をどう比べるか、修繕にいくらかけるか、入居者に退去してもらえるかといった話は、それぞれ別の記事で扱っているため、ここでは深入りせず必要な場所で案内します。
執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年9月3日
情報確認日:2026年9月2日
この記事の目次
築古のアパートで最初に効いてくるのは、税金の計算です。家賃収入が変わっていないのに、税金だけ重く感じるようになった、というご相談があります。その入口になっているのが減価償却です。
減価償却の計算に使う年数は、法律(出典:減価償却資産の耐用年数等に関する省令)の別表で決まっています。住宅用の建物では、木造・合成樹脂造が22年、金属造は骨格材の厚みによって19年・27年・34年、鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造が47年です。
ここで押さえておきたいのは、この年数が税金の計算のための年数であって、建物が使える期間ではないということです。木造アパートが築22年を過ぎたら住めなくなるわけでも、貸せなくなるわけでもありません。
減価償却は、建物を買ったときの金額を、使用可能期間の全期間にわたって分割し、各年分の必要経費に配分していく手続きです(出典:国税庁タックスアンサーNo.2100)。配分し終われば、その建物について計上する減価償却費はなくなります。
不動産所得は、家賃などの収入から必要経費を引いて計算します。必要経費の主なものとして挙げられているのは、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などです(出典:同No.1370)。償却が終わると、収入も家賃も変わっていないのに、引ける経費が1つ減った状態になります。
税額がどう動くかは、ほかの経費や所得の状況によって変わります。「償却が終わったから税金が必ず増える」とは言えませんが、手元の収支感覚と申告上の所得がずれ始める時期であることは確かです。
ローンが残っている場合、この時期に「帳簿では黒字なのに、お金が残らない」という状態になることがあります。一般に「デッドクロス」と呼ばれることがありますが、公的に定義された用語ではありません。中身は次の2つが重なった状態です。
償却が終わって前者がなくなり、後者の元本返済だけが続けば、申告上の所得と実際に残るお金の差は開きます。どの年からそうなるか、税額がどう動くかは物件ごとに違います。直近の確定申告書と返済予定表を並べて、税理士に一度見てもらうのが確実です。所有を続けるかどうかは、その数字を見てからでも遅くありません。
💡
先に結論
築年数で決まるのは建物の寿命ではなく、税金・書類・契約の条件です。持ち続けるか決める前に確認するのは、償却が終わる時期、建物の書類、入居者との契約の3つです。
イエリテの実務から
築古のアパートを査定でお預かりすると、建物の傷み方に対して家賃だけが以前のままになっている物件があります。長く住んでいる入居者がいて、募集をかけ直す機会がなかった、という経緯です。収支の数字だけを見ると悪くないように見えることがあるため、建物の状態と家賃水準は分けて確認するようにしています。
築年数が進むと、外壁や屋上防水、給排水まわりでまとまった支出が出てきます。このとき、支払った年に全額を経費にできるか、資産として計上して減価償却するかで、その年の所得が変わります。
国税庁は、修繕費と資本的支出の区分を実質で判定するとしています。建物の価値を高めたり耐久性を増したりする部分の支出は、資本的支出として減価償却の対象になります。あわせて、形式的な基準として次のものが示されています(出典:国税庁タックスアンサーNo.1379)。
実際の工事は、原状回復にあたる部分と性能を上げる部分が混ざっていることがあり、区分は見積書の内訳で変わります。工事を発注する前に、見積書の内訳の書き方を含めて税理士へ相談しておくと、あとで判断に困りません。
修繕の周期や費用の考え方そのものは、アパートの大規模修繕はいつ・いくらかかるかで扱っています。
「減価償却が終わった=資産価値がなくなった」と受け取られることがありますが、所得税の減価償却と、固定資産税の家屋評価は別の制度です。所得税の計算で償却し終えたことを理由に、固定資産税の課税がなくなるわけではありません。
家屋の固定資産税は、その家屋を今もう一度建てたらいくらかかるか(再建築価格)に、経過年数に応じた補正率をかけて評価額を出す仕組みです(参考:総務省 固定資産税の概要)。この補正率には下限が設けられているため、評価額は一定のところで下げ止まります。
ただし、固定資産税そのものには免税点があります。南城市では、同一の人が市内に所有する家屋の課税標準額の合計が20万円未満であれば、固定資産税・都市計画税は課税されません(出典:南城市 固定資産税の閲覧・縦覧について)。所有している資産の状況によって結果は変わるため、実際の課税額は毎年届く課税明細書で確認してください。金額の根拠や評価の内容が分からない場合、南城市であれば市の税務担当課が窓口です。
築古の物件で判断が止まりやすいのが、建物の書類です。売ると決めてから探し始めると、時間がかかることがあります。
建物は、工事が完了したら完了検査を受け、適合が確認されると検査済証が交付されます(建築基準法7条5項。指定確認検査機関が検査した場合は7条の2第5項)。古い建物では、これが交付されていない、または見当たらないことがあります。
検査済証がないこと自体を「違法建築である」と決める規定はありません。国土交通省は2024年12月に「既存建築物の現況調査ガイドライン」を公表し(第2版は2025年3月)、2014年の「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関等を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」は2025年4月1日をもってこの現況調査ガイドラインへ統合・一本化されました。現況調査では、検査済証がない場合でも直ちに違反建築物と判断されるわけではないとされ、建築士が調査を行い、その結果を確認申請に用いる手順が示されています(出典:国土交通省 既存建築物の活用の促進について)。
ただし、これは検査済証を再交付する仕組みではありません。増築や用途変更を考えている場合、調査に費用と期間がかかります。売却の場面でも、買主が金融機関の融資を使う場合に説明を求められることがあります。
建物を増築して床面積が変わったときは、表題部の変更登記を申請する義務があります。不動産登記法51条1項は、変更があった日から1か月以内に申請しなければならないと定めており、怠った場合には10万円以下の過料の定めがあります(同法164条)。
登記されていない増築部分があると、登記簿の内容と現況が食い違います。売買の場面では、この差をどう処理するかを契約前に決めることになります。手続きは土地家屋調査士の業務です。未登記の建物や増築の扱いは、未登記の建物は売却できるかで詳しく扱っています。
新耐震基準は、建築基準法施行令の改正により1981年(昭和56年)6月1日に施行されました。新旧の別は、竣工した年ではなく建築確認を受けた日が同年5月31日以前か6月1日以降かで分かれます。昭和56年・57年に完成した建物でも、確認が5月31日以前であれば旧耐震基準ということになります。
新しい規定が施行・適用された時点ですでに存在していた建物には、その規定は適用されません(建築基準法3条2項)。これがいわゆる既存不適格で、違法建築とは別のものです。ただし、新しい規定が適用された時点で、それ以前の相当する規定にすでに違反していた建物は、古いというだけで既存不適格として扱われるわけではありません。当時から違反していた建物と、当時は適法だった既存不適格の建物は分けて考えます。
増築・改築などを行う場合は、工事の内容に応じて現行基準への適合が必要になります(同条3項)。一方で、建築基準法86条の7などには、一定の増築等について既存部分への規制の適用を緩和する仕組みもあります(参考:国土交通省 既存建築物の活用の促進について)。「増築したら建物全体を必ず現在の基準へ直す」と一律には言えません。どこまで求められるかは計画の内容によるため、建替えや増築を具体的に検討する段階で、建築士または沖縄県南部土木事務所建築班へご確認ください。既存不適格の建物を売る場合の注意点は、既存不適格建築物は売却できるかもあわせてご覧ください。
✓
方針が決まる前に集めておく書類
イエリテの実務から
現地の確認にうかがうと、図面や検査済証が手元にない、増築した部分が登記されていない、という状態に行き当たることがあります。相続で引き継いだ物件では、書類がどこにあるか分からないところから始まることもあります。売る・貸す・建て替えるのどれを選ぶにしても同じ書類を探すことになるため、方針が決まっていない段階でも、1か所にまとめておくことをおすすめしています。

築古アパートの出口として、入居者がいる状態のまま売る方法(オーナーチェンジ)があります。このとき入居者との関係がどうなるかは、民法に定めがあります。
居住用のアパートでは、部屋の引渡しを受けている入居者は、それだけで賃貸借の対抗要件を備えています(借地借家法31条)。このように対抗力のある賃貸借がついた不動産が譲渡されたときは、原則として賃貸人たる地位が買主へ移転します(民法605条の2第1項)。
これとは別に、民法605条の3には、不動産の譲渡人が賃貸人である場合に、売主と買主の合意によって賃貸人たる地位を移転できる規定もあります。この移転にも賃借人の承諾は必要とされていません。どちらの場合でも、「入居者全員の承諾がなければオーナーチェンジ売却そのものができない」という仕組みにはなっていません。
!
注意点
例外があります。売主と買主が、賃貸人の地位を売主に留保する旨と、その不動産を買主が売主に賃貸する旨を合意したときは、賃貸人たる地位は買主に移転しません(民法605条の2第2項)。また、賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するには、所有権移転の登記が必要です(同条3項)。どういう形で売るかによって、入居者から見た貸主が変わるかどうかも変わります。
賃貸人たる地位が買主へ移転したときは、費用の償還に係る債務と敷金の返還に係る債務を、買主が承継します(民法605条の2第4項)。入居者が退去するときに敷金を返す相手は、買主ということになります。
一方、売主が実際に預かっている敷金相当額を、売主と買主の間でどう精算するかは別の話です。売買代金から敷金相当額を差し引くなど、決済時の精算方法を売買契約で決めておくのが実務です。返還義務が買主へ移ることと、現金がどう動くかは同じではありません。預かっている敷金の額と根拠が分かる資料を、早めに整理しておくと話が進みます。
賃貸中の物件を売る場合の実務は、入居者がいる家やアパートのオーナーチェンジ売却で扱っています。
売却時の税金の面でも、償却が進んでいることは効いてきます。建物の取得費は、購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算するためです(出典:国税庁タックスアンサーNo.3261)。手元にいくら残るかを見積もる段階では、売却価格だけでなく、この計算を含めて税理士へ確認してください。
なお、築年数が古い物件を買う側が金融機関からどのくらいの期間で融資を受けられるかは、金融機関や商品ごとの判断であり、公的な資料で一般化できるものではありません。買主の資金調達の条件によって、売却にかけられる期間や価格の考え方が変わることがある、という前提で計画を立ててください。

次の世代へ引き継ぐことを考えている場合、空室の状態は相続税の評価に関係します。土地と建物では計算の仕方が違うため、分けて確認します。
貸家建付地(自分の土地に建てた建物を人に貸している場合の土地)の価額は、自用地としての価額から、自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合を差し引いて計算します(出典:国税庁タックスアンサーNo.4614)。この賃貸割合は、課税時期に賃貸されている各独立部分の床面積の合計を、その家屋の各独立部分の床面積の合計で割ったものです。
建物のほうは、自分で使っている家屋であれば固定資産税評価額に1.0を乗じた金額で評価します。これに対してアパートのように貸家の用に供されている家屋は、固定資産税評価額から、固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合を差し引いた金額で評価します(出典:国税庁タックスアンサーNo.4602 Q3)。国税庁の例では、家屋の評価額1,000万円・借家権割合30%・賃貸割合100%のとき、貸家としての評価額は700万円になります。
つまり、空室が増えて賃貸割合が下がると、土地と建物の両方で減額が小さくなります。
課税時期にたまたま空いていた部屋が、すべて賃貸割合から外れるわけではありません。国税庁は、継続的に賃貸されてきたものであること、賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中に他の用途に供されていないこと、空室の期間が課税時期の前後の例えば1か月程度であるなど一時的な期間であること、課税時期後の賃貸が一時的なものではないことといった事情を挙げ、これらを総合的に勘案して判断するとしています(出典:国税庁 貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲)。
!
注意点
「1か月なら必ず認められる」「何か月を超えたら必ず認められない」という機械的な基準ではありません。募集の状況や空室期間の長さなどを合わせて判断するものなので、個別の判定は税務署または税理士へご確認ください。
それでも、募集を止めたまま長く空室にしている部屋は、この扱いから外れる方向に働きます。空室のままにしておくか募集を続けるかは、相続の評価という面でも意味が変わってきます。
空室が続く原因の切り分けは、アパートの空室が続くときの原因の切り分け方で扱っています。
築古のアパートについて、いま確認できることをまとめます。ほとんどは手元の書類で確認でき、足りないものは法務局などで取り寄せられます。
| 確認するもの | どこにあるか | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 直近の確定申告書 | 手元の控え | 減価償却費が残っているか、いつ終わるか |
| 返済予定表 | 金融機関から交付されたもの | 元本の返済がいつまで続くか |
| 固定資産税の課税明細書 | 毎年届く納税通知書に同封 | 現在の家屋の評価額・課税標準額 |
| 確認済証・検査済証・図面 | 引き継いだ書類一式 | 増築や建替えの検討に進めるか |
| 登記事項証明書 | 法務局(オンライン請求も可) | 現況と登記が食い違っていないか |
| 賃貸借契約書・敷金の記録 | 管理会社または手元 | 売る場合に引き継ぐ条件 |
この6つがそろうと、「持ち続ける」「貸し方を変える」「売る」のどれが現実的かを、感覚ではなく数字と書類で比べられます。ここがそろわないうちに結論を出しても、判断の材料が足りません。
収支の面から続けるか売るかを比べる方法はアパート経営を続けるか売るかの判断、建て替えを選択肢に入れられるかどうかはアパートの建替えと入居者の退去で扱っています。
築年数が古いこと自体は、貸せない理由にも売れない理由にもなりません。ただし、償却の終わり方、修繕費の税務上の扱い、建物の書類の有無、入居者との契約の引き継ぎ方といったところで、選べる道の幅は変わってきます。
はっきりした不具合が出ていない時期は、判断を先送りしやすい時期でもあります。書類と数字がそろっているうちに現在地を確かめておくと、修繕の相談が来たときも、買いたいという話が来たときも、落ち着いて答えを出せます。
ここまで確認しても、自分のアパートで「持ち続ける」「貸し方を変える」「売る」のどれが現実的かは、建物の状態と入居状況を実際に見ないと判断できない部分が残ります。当社では、賃貸中の建物の現況確認と、管理・売却の両面からの整理をお手伝いしています。
空室、家賃設定、修繕、入居者対応など、現在の管理状況を確認し、改善できる点を整理します。持ち続けるか手放すかを決めていない段階でもご相談いただけます。
貸せます。耐用年数は減価償却の計算に使う年数であり、建物を使える期間を定めたものではありません(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)。貸せるかどうかは建物の状態と安全性の問題で、年数だけで決まるものではありません。
原則として、被相続人の取得価額・耐用年数・経過年数・未償却残高を引き継いで減価償却を続けます。相続した時点で中古資産として耐用年数を設定し直せるわけではなく、耐用年数省令3条1項の簡便法によって計算することはできません(出典:国税庁 相続により取得した減価償却資産の耐用年数)。一方で、適用する償却方法は元の取得時期や相続の時期によって確認が必要になるため、申告資料を税理士へお見せください。
建築確認の記録が残っているかを窓口で確認するところから始めます。建築計画概要書などが保管されている場合があります。南城市は特定行政庁ではないため、建築確認の窓口は市ではなく沖縄県南部土木事務所建築班です。そのうえで、増築や建替えを検討する場合は建築士へ相談します。
賃貸人たる地位の移転そのものには、賃借人の承諾は必要とされていません(民法605条の3)。ただし、家賃の振込先や連絡先が変わるため、引き継ぎの通知は実務上必要です。また、買主が入居者へ賃料を請求するには所有権移転の登記が必要です(同法605条の2第3項)。
一概には言えません。解体費用の負担、入居者がいる場合の退去、更地にした場合の固定資産税の変化など、動く条件が複数あります。入居者の退去を伴う場合の考え方は、アパートの建替えと入居者の退去をご覧ください。
法令・税制・行政の運用は改正されることがあります。記載内容は2026年9月2日時点で確認したものです。個別の判断については、税理士・建築士・土地家屋調査士など、それぞれの専門家へご相談ください。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
売却だけでなく、賃貸や管理を含めた活用方法についてもご相談いただけます。