

執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年8月19日
情報確認日:2026年8月19日
相続税を納めたあとに、相続した土地や家を売る。このとき、納めた相続税の一部を売却の税金の計算に反映できる制度があることは、あまり知られていません。
制度の名前は「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」、実務では取得費加算の特例と呼ばれます。使えるかどうかで手元に残る金額が変わることがある一方、期限を過ぎると使えなくなります。しかも期限の起点は「売ろうと思った日」でも「相続登記が終わった日」でもありません。期限の数え方と、使える条件を国税庁の資料で確認していきます。南城市や沖縄県南部で相続した不動産をお持ちの方は、相続開始の日を思い出しながら読んでみてください。
なお、ここで扱うのは個人が納めた相続税と、売却したときの所得税・住民税の関係です。相続税そのものの計算方法は扱いません。
この記事の目次
不動産を売ったときの税金は、売却代金そのものではなく、売却によって生じた利益(譲渡所得)に対してかかります。その利益は、次のように計算します。
譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)= 譲渡所得
取得費とは、その不動産を買ったときの代金や購入時の諸費用です。相続した不動産の場合、原則として被相続人がその不動産を取得したときの購入代金や購入時の諸費用などをもとに取得費を計算します。取得費が大きくなるほど、計算上の利益は小さくなります。
取得費加算の特例は、相続で取得した財産を一定期間内に売った場合に、その人が納めた相続税のうち、売った財産に対応する部分を取得費に加算できるという制度です(租税特別措置法第39条。出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」令和7年4月1日現在法令等)。
相続税を納め、さらに売却でも所得税がかかる状況を調整するための制度、と位置づけると分かりやすいと思います。
譲渡所得の計算全体の考え方は、不動産を売ったときにかかる税金と3,000万円特別控除の基本でも説明しています。

国税庁は、この特例の要件を次の3つとしています(出典:国税庁「No.3267」)。
判断が分かれやすいのは2つ目です。相続財産の総額が基礎控除以下で相続税がかからなかった場合、この特例を使う前提そのものがありません。また、相続人が複数いる場合は、その不動産を取得して売る本人に相続税が課税されているかを確認する必要があります。加算できるのは、あくまでその人自身の相続税額のうち、売った財産に対応する部分です。
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先に確認したいこと
この3点が分かれば、特例を検討する土台ができます。

3つ目の要件にある期限は、実際にはどう数えるのでしょうか。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です(出典:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」)。取得費加算の期限は、その申告期限の翌日からさらに3年を経過する日までとされているため、相続開始からおおむね3年10か月になります。
たとえば2026年4月10日に相続が開始した場合、相続税の申告期限は2027年2月10日、取得費加算の期限はその翌日から3年後にあたる2030年2月10日ごろになります。実際の日付は、相続開始を知った日や休日の扱いによって変わりますので、正確な期限は税務署または税理士へご確認ください。
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期限で見落としやすい点
通常は相続開始からおおむね3年10か月が目安ですが、正確な期限は相続税の申告期限に連動します。遺産分割や相続登記が遅れていることだけを理由に、この期限が延びるわけではありません。また要件は「譲渡していること」で、売ることを決めただけでは足りません。売り出しから引き渡しまでには数か月かかることがあり、条件によってはさらに長くなります。
イエリテの実務から
当社へ寄せられるご相談では、相続した土地や実家の査定・現地確認をお受けした時点で、相続人の間で「売るか、そのまま持つか」の方針が決まっていないことがあります。現地を見て価格の見通しをお伝えしても、そこから話し合いが始まるため、実際に売り出すまでに時間がかかることがあります。当社では、こうした場合に、まず相続開始の日を確認したうえで、税務上の期限が関係しそうであれば、早い段階で税理士や税務署へ相談していただくようご案内しています。
遺産分割の話し合いが進まない場合の考え方は、共有名義の不動産の売却と全員の同意が必要な場面で整理しています。名義がそのままになっている場合は、相続登記の義務化と手続きの期限もあわせてご確認ください。
取得費に加算できる金額は、次の式で計算します(出典:国税庁「No.3267」)。
その人の相続税額 ×(その人の相続税の課税価格の計算の基礎とされた、その譲渡した財産の相続税評価額)÷(その人の取得財産の価額 + その人の相続時精算課税適用財産の価額 + その人の純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額)
納めた相続税の全額を取得費に加算できるわけではありません。売った財産の相続税評価額が、その人の取得財産等の価額に占める割合などをもとに、上の算式で計算します。相続した財産のうち一部の不動産だけを売る場合は、その不動産に対応する部分だけが対象です。
さらに上限があります。国税庁は、計算した金額が「この特例を適用しないで計算した譲渡益の金額を超える場合は、その譲渡益相当額となります」と説明しています。加算によって譲渡益がマイナスになり、譲渡損失が生まれるという使い方はできません。
計算に必要なのは、相続税の申告書一式(納付した税額と、財産ごとの評価額が分かるもの)です。売却の話が具体的になってから探すと、手元にない場合に時間がかかります。
相続した不動産の売却で比較されることが多いのが、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除です。
国税庁は空き家特例の要件のひとつとして、「売った家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと」を挙げています(出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」令和7年4月1日現在法令等)。同じ不動産について、空き家特例と取得費加算の両方を使うことはできず、どちらかを選ぶことになります。
控除額の大きさだけを見れば空き家特例が有利になる場面もありますが、空き家特例には耐震基準や家屋の使われ方などの細かい要件があり、対象にならないこともあります。どちらを選ぶかは、相続税をいくら納めたか、売却の利益がいくらになるか、空き家特例の要件を満たすかによって変わります。この判断は税額の試算を伴うため、税理士または税務署にご確認ください。
なお、空き家特例は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの売却が対象とされています(出典:国税庁「No.3306」)。適用期限のある制度ですので、検討する場合は最新の資料でご確認ください。空き家特例の内容は相続した空き家の売却・活用と3,000万円特別控除で扱っています。
取得費加算の特例は、申告して初めて適用されます。売却した年分の確定申告で、次の書類を添えて提出します(出典:国税庁「No.3267」)。
所得税の確定申告の期間は、原則として売却した年の翌年2月16日から3月15日まで(土日祝日にあたる場合は翌開庁日)です。売却の期限(3年10か月)とは別に、申告の期限があります。期限内に売却できても、申告をしなければ特例の効果は受けられません。
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手元に用意しておきたい書類
購入時の資料が見つからない場合は、取得費の計算そのものに影響します。この場合の扱いは別の論点になりますので、資料が見当たらない段階で税理士や税務署へご相談ください。
不動産会社は、税額の計算や特例の適用可否を判断する立場にはありません。相談先を分けて考えると進めやすくなります。
売却にどのくらいの期間がかかりそうかは、物件の状態や条件によって変わります。期限が関係しそうな場合は、税務の確認と並行して、売却の見通しを早めに確認しておくと判断しやすくなります。
特例の要件は、その財産を取得した人に相続税が課税されていることです(出典:国税庁「No.3267」)。相続税がかからなかった場合は、加算する相続税額がないため、この特例による効果は生じません。ご自身が相続税を負担したかどうかが分からない場合は、相続税の申告書の控えでご確認ください。
売った部分に対応する金額が計算の対象になります。加算額は、売った部分の相続税評価額と、その人の取得財産等の価額をもとに計算します(出典:国税庁「No.3267」)。分筆して一部を売る場合など、評価額の按分が必要になる場面では、計算方法を税理士へご確認ください。
要件は期限内に譲渡していることです。売り出しから引き渡しまでに要する期間は、物件の条件や買主の資金計画によって変わります。残りの期間が短い場合は、売却方法の選び方によって見通しが変わることがありますので、期限を伝えたうえでご相談ください。あわせて、間に合わなかった場合にどうなるかも税理士へ確認しておくと、判断の材料になります。
売却しない限り、この特例が使われる場面はありません。持ち続ける、貸す、売るのいずれを選ぶかは、税制だけで決まるものではなく、管理の手間や将来の使い道も含めた判断になります。判断の材料の整理は実家を残すか売るか、決める前に確認したい期限のあることもご覧ください。
取得費加算の特例は、相続税を納めた人が、相続した不動産を一定期間内に売った場合に、納めた相続税のうち売った財産に対応する部分を取得費へ足せる制度です。使えるかどうかは、相続税を負担しているか、期限内に譲渡できるかで決まります。
期限は相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで。通常は、相続開始からおよそ3年10か月が目安です。遺産分割や相続登記が遅れていることを理由に、この期限が延びるわけではありません。加算できる金額は、売った財産の相続税評価額とその人の取得財産等の価額をもとに計算し、譲渡益を超えて加算することはできません。同じ不動産について相続空き家の3,000万円特別控除と併用することもできません。
相続した不動産をどうするかは、税制だけで決める話ではありません。ただ、売るという選択肢を残しておくのであれば、相続開始の日と相続税の申告内容を早い段階で確認しておくことが、後の選びやすさにつながります。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、2026年8月19日時点の法令・制度にもとづいています。税額の計算や特例の適用可否は個々の事情によって異なりますので、具体的な判断については税務署または税理士へご確認ください。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
相続した不動産の扱いでお悩みの方は、状況を整理するところからお気軽にご相談ください。