

執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年8月22日
情報確認日:2026年8月22日
「実家を親から買い取りたい」「兄弟で相続した土地を、1人が他の兄弟から買い取って単独名義にしたい」。親族間で不動産を売買しようとすると、通常の第三者間の売買とは違う疑問にぶつかります。いくらで売買すれば問題にならないのか、住宅ローンは組めるのか、そもそも仲介は必要なのか、といった点です。
親族間売買そのものは、法律上禁止されているわけではありません。ただし、価格の決め方を誤ると贈与とみなされて贈与税がかかったり、想定していた税金の特例が使えなかったりします。住宅ローンも、第三者間の売買と同じようには進まないことがあります。価格・税金・融資の3点を、法令と公的資料をもとに順に確認していきます。
親族間売買とは、親子・兄弟姉妹・親戚など、親族の間で不動産を売買することを指します。贈与は原則として無償で財産を移すのに対し、親族間売買は対価(代金)を支払って所有権を移す点が異なります。ただし、売買の形をとっていても、対価が時価と比べて著しく低い場合は、税務上その差額が贈与とみなされることがあります(詳しくは次章で説明します)。
第三者間の売買と法律上の仕組み自体は変わりませんが、当事者が親族であることから、次の3点で確認すべきことが増えます。
以下、この3点を順に確認します。
親族間売買で価格を決めるときにまず知っておきたいのが、贈与税の「みなし贈与」という仕組みです。
相続税法は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合、対価と譲渡時の時価との差額に相当する金額を、譲渡した者から贈与により取得したものとみなすと定めています(出典:e-Gov法令検索「相続税法」第7条)。売買という形をとっていても、価格が時価とかけ離れていれば、その差額分について買主(財産を譲り受けた側)に贈与税がかかる可能性があるということです。
なお、この規定には例外もあります。財産を譲り受けた人が資力を失って債務の弁済が困難な場合に、扶養義務者から弁済に充てるためになされた譲渡については、弁済が困難な部分の金額はみなし贈与の対象になりません。一般的な自宅の親族間売買では、通常この例外には当てはまりません。
「時価の何割で売れば安全か」という基準を知りたい方は多いのですが、国税庁は、著しく低い価額の対価であるかどうかは個々の具体的事案に基づき判定するとしており、贈与税の判定において明確な数値基準は示していません(出典:国税庁「No.4423 著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」)。
このページでは、法人へ譲渡する場合に使われる「時価の2分の1未満」という基準(所得税法上のみなし譲渡課税の基準)とは異なるものである、とも明記されています。つまり「時価の半分以上で売ったから贈与税は安全」という理解は成り立ちません。価格の妥当性は、事案ごとに総合的に判断される点を前提に考える必要があります。
みなし贈与を避けるためには、何を基準に価格を決めるかがポイントになります。
「路線価や固定資産税評価額で売れば、税務署からも認められるのでは」と考える方もいますが、国税庁の個別通達では、負担付贈与または個人間の対価を伴う取引により取得した土地・家屋等の価額は、取得時における通常の取引価額(市場価格)に相当する金額によって評価するとされています(出典:国税庁「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」直評5・直資2-204)。
この通達では、著しく低い価額の対価であるかどうかは、取引の事情や当事者間の関係等を総合勘案し、実質的に贈与を受けたと認められる金額があるかどうかにより判定するとされています。また、対価の額が取得価額(もとの取得費用)を下回る場合は、価額が下落したことなど合理的な理由がない限り、著しく低い価額の対価に当たるものとする、という定めもあります。相続税評価額を基準に安く売る進め方は、この通達に照らすとリスクが残ることになります。
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注意点
路線価や固定資産税評価額を基準に価格を決めると、通常の取引価額(市場価格)との差額分がみなし贈与と判定されるおそれがあります。市場価格を基準に価格を検討してください。
適正価格を判断する材料として有効なのが、不動産会社による査定や、不動産鑑定士による鑑定評価です。査定書・鑑定評価書は、価格が市場実勢からかけ離れていないことを示す客観的な資料になります(査定の進め方は不動産の売却査定とは?机上・訪問査定の違いと査定額の見方で説明しています)。
役割は専門家ごとに分かれます。不動産会社は売却・取引全体の相談と価格の目安の提示を行い、鑑定評価としての正式な評価額が必要な場合は不動産鑑定士に依頼します。みなし贈与に該当するかどうかの最終的な税務判断は、税理士に確認することをお勧めします。
価格の決め方を確認したら、次は売る側にかかる税金の注意点を確認します。
時価の2分の1に満たない対価で資産を譲渡した場合に時価で譲渡したものとみなす規定(所得税法第59条第1項第2号)は、法人に対して譲渡した場合に適用されるものです。個人である親族に売った場合には、このみなし譲渡課税は適用されず、売主(親など)は実際に受け取った売買代金をもとに譲渡所得を計算します(出典:e-Gov法令検索「所得税法」第59条、国税庁「No.3217 時価より低い価額で売ったとき」)。
一方で、注意したい規定もあります。個人に対して時価の2分の1未満の対価で譲渡し、その対価が取得費と譲渡費用の合計額に満たない場合、その不足額(譲渡損に相当する部分)はなかったものとみなされます(所得税法第59条第2項)。安く売ることで譲渡損が生じるように見えても、税務上その損失を使えない場合があるということです。

自分が住んでいる家を売ったときに譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例には、「特別の関係がある人」への売却でないことという要件があります。国税庁は、この「特別の関係がある人」には親子や夫婦のほか、生計を一にする親族、売った家屋にその後同居する親族、内縁関係にある人なども含まれるとしています(出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」)。
親子間・夫婦間の売買では、この特例は原則として使えません。生計を別にする兄弟姉妹間の売買が該当するかどうかは、要件の細部(政令の定め)を踏まえた個別の確認が必要になるため、断定はできません。特例の適用可否は、契約前に税理士へご確認ください。
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ポイント
制度ごとに要件が異なるため、該当するかどうかは自己判断せず、契約前に税理士へ確認してください。
価格・税金の次に確認したいのが、資金計画に直結する住宅ローンの話です。
親族間売買では、民間金融機関の住宅ローン審査で慎重な取扱いを受けることがあります。各金融機関の審査基準は公表されておらず、法令や公的資料でその理由を確認することはできませんでした。価格の妥当性を示す資料(査定書など)を用意しておくと、審査での説明がしやすくなる場合があります。
公的性格を持つ住宅ローンであるフラット35については、住宅金融支援機構が取扱いを明らかにしています。親子間で売買契約を締結し、所有権移転登記の登記原因が売買となるものは、融資の対象になる場合があるとされ、この取扱いは直系親族間および兄弟姉妹間の売買も同様とされています。一方、夫婦間の売買は融資の対象になりません(出典:住宅金融支援機構「【フラット35】よくある質問」)。
ただし例外もあります。申込む前から既にその住宅に住んでいる場合で、売主と買主が同居しているとき、または買主が売主から使用貸借(無償)でその住宅を借りているときは、融資の対象になりません。「親と同居している子が、その家を親から買い取る」という典型的なケースが対象外になり得るため、事前に取扱金融機関へ確認することをお勧めします。
中古住宅取得時の住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)には、住宅の取得が、取得時およびその後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある者からの取得でないことという要件があります。この要件は住宅ローン控除の根拠法令である租税特別措置法第41条第1項に定められているもので、2026年8月22日時点で確認した現行条文でも同様の除外規定が置かれています(出典:国税庁「No.1211-3 中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)」、e-Gov法令検索「租税特別措置法」第41条第1項)。
親と同居して生計を一にしたまま親の家を買い取るようなケースでは、この要件を満たさず控除が使えない可能性があります。別生計であれば要件を満たす余地がありますが、「特別な関係のある者」の範囲には細かな定めがあるため、適用の可否は税理士へご確認ください。
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融資を検討する前に確認したいこと
価格・税金・融資を整理したうえで、最後に確認したいのが進め方そのものです。

宅地建物取引業者が売買を媒介する場合、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士が重要事項を記載した書面を交付して説明することが法律で義務づけられています(出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第35条第1項)。この義務は宅建業者に課されるものなので、宅建業者が関与しない親族間の直接売買では、この重要事項説明は行われません(直接売買が法律違反になるという意味ではありません)。
親族間だからこそ、「言った・言わない」や、後になってからの認識の違いが、他の親族を巻き込むトラブルに発展しやすい面があります。仲介を入れて契約書・重要事項説明書を整えておくことは、合意した取引条件や物件の状況を記録として残すことにつながり、将来のトラブルを防ぐことにつながります。なお、重要事項説明書は物件の権利関係や法令上の制限、取引条件などを説明するための資料であり、それ自体が価格の妥当性を証明するものではありません。価格の根拠は、査定書や周辺の取引事例など別の資料で残しておく必要があります。
イエリテの実務から
当社へ寄せられるご相談のなかには、親族間売買の価格をどう決めればよいかというご相談、また住宅ローンなどの融資に関するご相談があります。価格の決め方や融資の通し方は事案ごとに事情が異なるため、査定や個別の相談を通じて、状況に合わせて整理するようにしています。
みなし贈与の考え方(相続税法第7条)は、親子に限らず親族間の譲渡全般に当てはまります。一方で、3,000万円特別控除や住宅ローン控除の「特別の関係」に該当するかどうかは、生計が別かどうかなど、親子間とは判定が変わる場合があります。個別の事情によって結論が変わるため、税理士へご確認ください。なお、フラット35は直系親族間・兄弟姉妹間の売買も親子間と同様の取扱いとされています。
価格の目安は不動産会社の査定で確認できます。正式な鑑定評価が必要な場合は不動産鑑定士に依頼し、みなし贈与に該当しないかどうかの税務上の判断は税理士に確認するのが基本的な役割分担です。当社では、査定のご相談を承っています。
宅建業者に仲介を依頼する場合は、通常の売買と同様に仲介手数料がかかります。手数料は発生しますが、契約書・重要事項説明書の整備を通じて取引条件や物件情報の記録が残ることは、親族間だからこそのトラブル防止につながります。仲介を入れずに直接契約する進め方もありますが、その場合は契約書の作成や価格の根拠づくりを自分たちで行う必要があります。
親族間での不動産売買は禁止されていませんが、価格を時価より著しく低く設定すると、差額が贈与とみなされ買主に贈与税がかかる可能性があります。「著しく低い価額」に決まった数値基準はなく、相続税評価額ではなく通常の取引価額(市場価格)を基準に、個々の事情を総合的に勘案して判定されます。3,000万円特別控除と住宅ローン控除は、それぞれ別の要件で「特別の関係がある人」への売買を制限しており、親子間などの売買では該当する場合があるため、住宅ローンも民間・フラット35それぞれで確認しておきたい点があります。
価格の妥当性を示す査定を取り、税理士や金融機関へ事前に確認したうえで進めることが、あとからのトラブルを防ぐことにつながります。仲介を入れる場合は、契約書・重要事項説明書の整備を通じて、取引条件や物件情報の記録を残すことができます。ただし、重要事項説明書は価格の妥当性を証明する資料ではないため、価格の根拠は査定などの資料で別に残しておく必要があります。まずは査定や相談から始めることをお勧めします。
なお、譲渡所得税や3,000万円特別控除の一般的な仕組みは、不動産を売ったときにかかる税金と3,000万円特別控除の基本をご覧ください。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、2026年8月22日時点の法令・制度にもとづいています。価格の妥当性の判断、税額の計算や特例の適用可否、融資の可否は個々の事情によって異なりますので、税理士・金融機関・司法書士など専門家へご確認ください。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
南城市や沖縄県南部の不動産について、お困りごとがあればお気軽にご相談ください。