

執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年08月16日
情報確認日:2026年08月16日
転勤、住み替え、相続。理由はさまざまでも、「今住んでいない戸建てをどうするか」という悩みは共通しています。売る以外に、貸すという方法を検討する方も少なくありません。
売却であれば、まとまった資金が一度に入り、その後の管理も手放せます。一方、貸せば家を手元に残しながら家賃収入を得られますが、空室のリスクや維持の手間も引き受けることになります。
家賃と売却価格を単純に比べるのではなく、手取り・税務・将来の選択肢を失う期限まで含めた収支で比べておくことが、貸すかどうかを決める前の第一歩になります。
戸建て賃貸が選択肢に上がるのは、次のような場面です。
将来その家に戻る可能性があるかどうかは、売却と賃貸のどちらを選ぶかを大きく左右します。戻る予定がまったくない場合は売却との比較を、戻る可能性がある場合は賃貸を軸に検討が進みやすくなります。
まず、貸すという方法を選んだときに得られるメリットから確認します。
貸し出す一番のメリットは、所有権を維持したまま家賃収入を得られることです。売却のように所有権そのものを失うわけではないため、将来その家を使う可能性を残せます。
所定の要件を満たす定期借家契約であれば、あらかじめ定めた期間で契約を終えることができます。定期借家契約は、書面による契約(電磁的記録による契約を含む)に加え、契約締結前に「更新がなく期間満了で終了すること」を契約書とは別の書面で説明する必要があります。この事前説明をしない場合、更新がないとする定め自体が無効になります。また、契約期間が1年以上の場合は、貸主が満了の1年前から6か月前までに終了通知をする必要があり、通知が遅れた場合は、通知の日から6か月を経過するまで終了を借主に主張できません。契約形態の詳しい選び方は、普通借家契約と定期借家契約の違いは?戸建てを貸すときの選び方で整理しています。
転勤からの帰任予定がある場合や、将来子どもに譲る可能性がある場合など、「今は使わないが手放したくはない」という事情に対応しやすくなります。
人が住み続けることで、換気や通水が保たれ、建物の劣化を抑えやすくなります。空き家のまま放置すると、雨漏りやシロアリ被害が進んでから気づくケースもあります。入居者がいれば、設備の不具合に早く気づける点もメリットです。
イエリテの実務から
当社へ寄せられるご相談のなかには、実際に戸建てを賃貸に出した方の事例があります。貸し出し自体はうまく進んだものの、住宅ローンの取り扱いや契約形態(普通借家か定期借家か)をどう選べばよいか、募集を始める段階になって迷われたケースがありました。
家賃をいくらにするかより先に、「ローンが残っていないか」「将来その家をどうしたいか」を整理しておくと、その後の契約選びがスムーズに進みます。
一方で、貸すことによって新たに引き受けることになる負担もあります。
入居者が決まるまで、家賃収入はありません。募集条件や地域の需要によっては、想定より空室期間が長引くこともあります。空室中も固定資産税はかかり続け、火災保険を継続する場合はその保険料もかかるため、収支を考えるうえで前提に入れておく必要があります。住宅ローンが残っている場合は、空室が続くと家賃収入がないまま返済が重なることもあるため、空室が長引いた場合の資金繰りも事前に見込んでおくと安心です。
入居者の退去後には、原状回復のための修繕やハウスクリーニングが必要になることがあります。ただし、退去後の費用がすべて借主負担になるわけではありません。経年変化や通常の使用による損耗の修繕費用は、原則として賃料に含まれるものとして貸主が負担するとされています。借主の故意・過失や善管注意義務違反など、通常の使用を超える損耗は借主負担となり得ます。ハウスクリーニング費用の扱いは契約内容や特約によって変わるため、契約書で確認しておくと安心です。設備が古い場合は、入居前の交換が必要になるケースもあります。
イエリテの実務から
当社へ寄せられるご相談では、貸し出し前に想定していたよりも、修繕費やクリーニング費が高くついたという声を伺うことがあります。
私自身がお伝えしているのは、家賃収入の見込みだけでなく、修繕費・クリーニング費・保険料といった維持費まで含めて、事前に収支を確認しておくことが大切だということです。家賃だけを見て貸し出しを決めると、想定より手残りが少なくなることがあります。
家賃滞納、設備の故障、入居者からの問い合わせなど、貸したあとも対応すべきことは続きます。自分で対応する自主管理と、管理会社へ委託する方法があり、どちらを選ぶかによって手間と費用のバランスが変わります。
戸建てを貸すときは、契約形態(普通借家か定期借家か)と、住宅ローンが残っている場合の借入先への確認が欠かせません。これらは、修繕・募集・契約に進む前に確認しておく事項にあたるため、別記事で詳しく整理しています。
売却と賃貸は、どちらが正解というものではなく、家の状況とご自身の予定によって選び方が変わります。比較するときは、売却価格や家賃収入の総額ではなく、諸費用や税務を差し引いた実際の手取りで見ることが大切です。賃貸では、家賃から修繕費・管理料等を引くだけでなく、住宅ローンが残る場合は毎月の元利返済額も資金繰りに含めて比較します。ただし、税務上、賃貸部分に対応する借入金の返済額のうち元本相当額は必要経費にならないため、現金収支と不動産所得(税務上の利益)を同じ数字として扱わないことが大切です。
| 売却 | 賃貸 | |
|---|---|---|
| 資金の入り方 | 引き渡し時にまとまった資金が入る | 家賃として継続的に入る(空室中は入らない) |
| 所有権 | 手放す | 維持したまま貸す |
| 将来その家を使う可能性 | 買い戻さない限り無くなる | 所定の要件を満たす定期借家契約であれば残せる |
| 管理の手間 | 引き渡し後は不要 | 入居者対応・修繕対応が続く |
| かかる費用 | 仲介手数料・譲渡所得税など(売却時のみ) | 修繕費・管理委託料・保険料など(継続的にかかる) |
| 手取り・税務上の確認 | 売却価格ではなく、残債・仲介手数料等を差し引いた手取りで比較する | 家賃収入は不動産所得として計算する。ローン返済の元本部分は必要経費にならない。住宅ローン控除を受けている場合、原則として対象外になる |
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税務上の注意点
以前住んでいた自宅を売る場合の3,000万円特別控除(居住用財産の特例)は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売れば、その間に賃貸に出していても、他の要件を満たせば対象になり得ます。
一方、相続した実家を売る場合に使える別の特例(相続空き家の3,000万円特別控除)もあります。2026年8月16日時点の現行制度では2027年12月31日までの譲渡が対象で、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限もあります。控除額は最高3,000万円ですが、2024年1月1日以後の譲渡で、家屋・敷地を取得した相続人が3人以上の場合は最高2,000万円です。相続から譲渡までの間、賃貸・居住・事業に使っていないことも要件の一つのため、貸し出すとこの特例の対象外になります。また、この特例は、昭和56年5月31日以前に建築された区分所有建物登記のない家屋で、相続開始の直前に被相続人以外の居住者がいないことなど、複数の要件を満たす場合に限られます(老人ホーム等への入所があった場合は別途要件があります)。どちらの特例を使う可能性があるか、そもそも対象になり得る家屋かによって判断が変わるため、貸す前に税理士へご確認ください。
住宅ローン控除を受けている家を、本人・家族が住まなくなって賃貸に出す場合は、住まなくなった年以後、原則として控除を受けられません。転任命令等のやむを得ない事由で将来の再適用を検討する場合、離居日までに「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」などの提出が必要になるケースがあります。再びその家に住んだ年に賃貸利用があった場合は、翌年以後からの再適用となる場合もあります。転居・修繕・募集に進む前に、税理士または所轄税務署へご確認ください。相続した実家の場合は、貸主となる方や相続登記の状況も、募集前に確認しておく必要があります。
売却の流れや費用については、不動産を売却するときの流れと注意点もあわせてご確認ください。
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判断のポイント
「今すぐまとまった資金が必要かどうか」「将来その家を使う可能性を残したいかどうか」の2点が、判断の分かれ目になりやすいポイントです。

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貸し出し前の確認ポイント
家賃の決まり方は南城市で戸建ての家賃はどう決まる?査定で見る5つのポイントと貸す前の確認事項で詳しく整理しています。相続した実家を貸すかどうかで迷っている場合は、相続した実家を貸すには?沖縄で戸建て賃貸を始める前に確認したいことも判断の参考になります。所有している家に借り手がつくかを、駐車場・間取り・立地といった物件側の条件から見極める観点は戸建て賃貸に向いている家とは? 借り手がつくかを物件の条件から見極めるで整理しています。
戸建て賃貸を検討する際によく寄せられる質問をまとめました。
貸主が維持管理を担う範囲が異なります。マンションでは、共用部分や敷地の維持管理は管理組合が担いますが、専有部分の設備・内装の修繕や入居者への対応は、原則として区分所有者である貸主が担います。戸建てでは、屋根・外壁・敷地・庭木など、マンションなら共用部分にあたる範囲も含めて貸主が管理するため、建物全体の修繕費を見込む必要があります。実際の負担範囲は、管理規約や設備の区分によっても異なるため、あわせて確認しておくと安心です。マンション側で確認しておきたいことは、住宅ローン中の分譲マンションは貸せる?戸建てと違う確認先と毎月の支出にまとめています。共用部分と専有部分で連絡先がどう分かれるかは、分譲マンションを貸すと管理会社は二つ?管理組合側と賃貸管理会社の役割の違いで扱っています。
募集条件や家賃設定を地域の需要に合わせることが基本です。具体的な空室対策や家賃の決め方は物件ごとに異なるため、地域の賃貸事情に詳しい不動産会社へご相談ください。
入居者がいる状態でも売却は可能ですが、通常の売却とは進め方が異なります。入居者との契約を承継したまま売却する「オーナーチェンジ」という方法もあります。入居者との契約内容や引き渡し時期の調整が必要になるため、早めに不動産会社へ物件の状況をご相談ください。
「得かどうか」は、金額だけでなくご自身の予定によっても変わります。将来その家を使う可能性があるかどうか、まとまった資金がいつ必要かによって、選び方の軸が変わります。売却は住宅ローン残債や諸費用を差し引いた手取りで、賃貸は家賃収入からローン返済・修繕費等の支出を差し引いた現金収支と、税務上の不動産所得を分けて比較します。相続した実家の場合は、そもそも相続空き家の特例の対象になり得る家屋かどうか、賃貸に出すと使えなくなる可能性もあわせて確認しておく必要があります。比べる期間の決め方まで含めた手順は、売る・貸す・残すの比べ方と判断の順番で扱っています。当社では、件数や割合を集計した統計は持っていないため、収支の試算はご自身の状況に合わせて個別にご相談いただくことをお勧めします。
本記事は、契約形態・住宅ローン・家賃査定・相続実家の判断について、次の記事の内容を前提としています。詳細はこれらの記事をご参照ください。
この記事は、一般的な情報提供を目的としたものです。個別の収支試算や契約内容、税務上の取扱いについては、不動産会社・税理士・税務署など専門家へご確認ください。制度や市場の状況は変わることがあります。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
売却だけでなく、賃貸や管理を含めた活用方法についてもご相談いただけます。