


親が施設に入ることになり、空いたままの実家をどうするか考え始めた。そのようなタイミングで、「親の名義のままだが、子どもの自分が売る手続きを進められるのか」というご相談をいただくことがあります。
先にお伝えすると、認知症と診断されたことだけを理由に、その不動産が売れなくなるわけではありません。分かれ目になるのは診断名ではなく、契約をするときに、本人が契約の内容と結果を理解して判断できる状態かどうかです。
一方で、家族であるというだけでは、親に代わって家を売る権限は認められません。判断能力が失われた後は、家庭裁判所が関わる手続きを経る必要があり、居住用の不動産では家庭裁判所の許可も必要になります。
この記事では、南城市で親名義の不動産を扱うときに確認したいことを、民法の規定と裁判所・法務省の資料をもとに整理します。
執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年07月28日
最終更新日:2026年07月28日
情報確認日:2026年07月28日
この記事の目次
不動産の売買契約は、名義人本人が結ぶことが原則です。子や配偶者であっても、家族であるという理由だけで代わりに契約する権限が与えられるわけではありません。
まずは、判断能力が下がった状態で契約するとどうなるのかを確認しておきます。
民法には、次の規定があります。
「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」(民法第3条の2)
意思能力とは、自分の行為の結果を判断できる能力のことです。この規定は、家庭裁判所の手続きを経ていなくても適用されます。つまり、後見人が付いていない段階であっても、契約したときに本人が判断できる状態でなかった場合、その売買契約は無効となる可能性があります。
無効となれば、売買代金を返す必要が生じ、買主にも大きな影響が及びます。売主側の事情であっても、取引全体をやり直すことになりかねません。
すでに後見が開始している場合は、別の規定が働きます。
「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」(民法第9条)
日用品の購入などは対象外ですが、不動産の売買は「日常生活に関する行為」にはあたらないと考えられます。成年後見人が付いている方が自分で結んだ売買契約は、後から取り消される可能性があります(出典:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」)。
「本人に委任状を書いてもらえば代理できるのではないか」と考える方もいらっしゃいます。
ただし、委任状も本人の意思にもとづく行為です。判断能力が失われた後に署名してもらった委任状は、本人に意思能力がなければ効力が認められません。
また、所有権を買主へ移す登記の手続きでは、司法書士が売主本人の意思を確認するのが実務の流れです。書類の形式だけを整えても、手続きが進まない場面が出てきます。
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急いで契約を進めないでください
判断能力に不安がある状態のまま売買契約を結ぶと、後から無効や取消しの問題が生じ、買主にも影響が及びます。
「本人の代わりに家族が署名する」「事情を知らせずに進める」といった対応は避け、先に手続きの順番を確認してください。
イエリテの実務から
当社へ寄せられたご相談のなかに、「子どもである自分が代わりに契約すればよいと思っていた」というものがあります。
家族の間では自然な発想ですが、契約と登記の場面では、名義人本人が判断できる状態かどうかが確認されます。
売却の話を進める前に、名義がどなたで、その方が契約できる状態かを確かめておくと、後から予定を組み直す手間を避けられます。
親名義の不動産をどう扱えるかは、次のどれにあたるかで変わります。
判断能力が下がってきたことが、そのまま「本人では契約できない」という結論になるわけではありません。その売買契約の内容と結果を理解できていれば、本人が契約できる可能性があります。

法定後見は、判断能力の程度によって3つに分かれています。それぞれ、本人が行った行為に同意したり取り消したりする権限と、本人に代わって契約する権限(代理権)の範囲が異なります。
| 種類 | 対象となる方 | 同意権・取消権 | 代理権 |
|---|---|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 | 成年後見人に同意権はありません。日常生活に関する行為以外の行為を取り消せます | 財産に関するすべての法律行為 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な方 | 不動産の処分など、民法第13条第1項に定める行為には保佐人の同意が必要です。同意を得ずに行った行為は取り消せます | 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定めた特定の法律行為に限られます(審判には本人の同意が必要です) |
| 補助 | 判断能力が不十分な方 | 家庭裁判所の審判で定めた特定の法律行為について与えられます | 家庭裁判所の審判で定めた特定の法律行為に限られます(本人が申し立てるか、本人の同意が必要です) |
同意権があることと、本人に代わって契約できることは別です。保佐人・補助人が本人に代わって売買契約を結ぶには、不動産の処分について代理権を与える審判を受けている必要があります(出典:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A(法定後見制度について)」)。
どの類型にあたるかは、家庭裁判所が判断します。個々の売買契約について本人が理解できているかどうかは、医師による医学的な評価を参考にしながら、契約時の本人の理解状況を個別に確認することになります。不動産会社が判定できる事柄ではありませんので、判断に迷う場合は弁護士・司法書士などへご相談ください。
制度の利用について地域で相談したい場合は、南城市地域包括支援センターなどの窓口をご利用いただけます。同センターは権利擁護・成年後見制度を担当し、制度の普及や利用手続きの支援も行っています。
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用語の整理
意思能力は、自分の行為の結果を判断できる能力のことで、契約の有効・無効に関わります。
後見・保佐・補助は、判断能力が下がった方を支える制度上の区分です。どの区分にあたるかは、家庭裁判所が判断します。
法定後見を利用して不動産を売却する場合、次のような順序で進みます。

期間の目安は、裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」で示されているものです。申立先は本人の住所地の家庭裁判所で、沖縄県内の管轄や申立ての手引きは那覇家庭裁判所のウェブサイトで確認できます。
後見開始の申立てでは、次の費用がかかります(出典:裁判所「後見開始」)。
このほか、医師の診断書の作成費用や、戸籍・住民票などの取得費用がかかります。金額と必要書類は申立先の家庭裁判所で確認してください。
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動き出す前に確認したいこと
売却そのものの進み方は「不動産売却の流れを6ステップで解説」で説明しています。後見人が選ばれた後の流れは、通常の売却と大きく変わりません。
成年後見人が本人の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要です(民法第859条の3)。保佐人・補助人の場合も、不動産を処分する代理権が付与されているときは同じ手続きが必要です。
ここは特に注意したい部分です。許可を得ないでした処分は無効になります。
許可が必要になるのは、売却だけではありません。裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」では、次のような行為が挙げられています。
「もう住んでいないのだから居住用ではない」と考えてしまうこともありますが、範囲はもう少し広く定められています。
裁判所の説明では、居住用不動産とは、現に住居として使用している場合に限らず、本人が現在は病院や施設に入所しているため居住していないが、将来居住する可能性がある場合、または入所前に居住していた場合なども含むとされています。
つまり、親が施設に入る前まで暮らしていた実家は、居住用不動産として扱われる可能性があります。居住用にあたるかどうかの判断に迷う場合は、申立先の家庭裁判所に確認してください。
居住用不動産は、本人の生活の基盤にあたるものです。そのため、処分してよいかどうかが慎重に判断されます。
「相続税の対策になるから」「家族の生活資金に充てたいから」といった理由は、本人の利益とは別のものです。売却する必要性、代金の使いみち、本人の生活への影響などを説明できるように整理しておく必要があります。
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売却の日程は、許可を前提に組みます
許可の申立てにかかる手数料は、収入印紙800円分です。
無条件で売却や引き渡しを確定させず、許可を前提として契約条件と日程を調整します。具体的な進め方は、申立先の家庭裁判所へご確認ください。
成年後見制度は、判断能力が下がった方の権利を守るための制度です。不動産を売るための手続きではありません。この違いから、次の3点は申立ての前に知っておきたい内容です。

成年後見人は、本人のためにどのような保護・支援が必要かなどの事情に応じて、家庭裁判所が選任します。申立てのときに候補者を挙げることはできますが、そのとおりに選ばれるとは限りません。
法務省は、本人の親族以外にも、法律・福祉の専門家その他の第三者や、福祉関係の公益法人その他の法人が選ばれる場合があると説明しています。成年後見人を複数選ぶことも可能です。
専門職が選ばれた場合、本人の財産から報酬が支払われることがあります。報酬は自動的に発生するものではなく、後見人からの申立てにもとづいて家庭裁判所が審判で決めます。金額の基準は法律で決まっているわけではなく、事務の内容や管理する財産の状況などを考慮して決められます(出典:裁判所「報酬の付与(成年後見制度、未成年後見制度)」)。
成年後見は、不動産を売り終えたら終了する制度ではありません。
裁判所は、「本人の能力が回復されるか、本人が亡くなるまで手続は続きます。また、ご家族の意思や本人の希望でやめることはできません」と説明しています。
売却のためだけに利用を決めると、その後の財産管理や報告の負担が想定と違ってくることがあります。制度全体の内容を確認したうえで判断してください。
売却して得たお金は、本人の財産として管理されます。成年後見人は、本人のためにその財産を使います。
家族の生活費や、相続を見据えた資産の組み替えのために自由に使えるものではありません。この点は、家族の間で認識がずれやすいところです。
親の介護費用や施設の費用に充てるといった、本人のための支出は認められます。「誰のためのお金か」という線引きを、あらかじめ家族で共有しておくと、後の行き違いを防げます。
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判断のポイント
成年後見制度は、本人を守るための仕組みです。売却は、その中で本人の利益になると認められた場合に進められる手続きにあたります。
「家を売る方法」としてだけ考えると、開始後の負担や制約が想定と違ってくることがあります。
ここまでは、判断能力が低下した後の手続きを説明しました。ただ、選択肢が多いのは、判断能力があるうちです。
実家を将来どうするかは、答えを一つに決めなくても構いません。売る、貸す、そのまま維持するなど、考えられる方向を家族で共有しておくだけでも、いざというときの動きが変わります。
判断の材料として、現在の資産価値を把握しておく方法もあります。「不動産の売却査定とは?机上・訪問査定の違いと査定額の見方」で査定の種類を説明しています。実家を残すか売るかの整理は「実家は残す?売る?決める前に確認したい「期限のあること」」もご覧ください。
イエリテの実務から
成年後見制度を使うことになった場面に関わったことがあります。そのうえで一つお伝えするとすれば、判断能力があるうちに、家族で話しておくことの大切さです。
制度が始まってからできることは、法律で決められた範囲に限られます。話し合える時期にどれだけ整理できているかで、選べる方法の幅が変わります。
「まだ元気だから」と先送りにせず、名義の確認と方針の共有だけでも進めておくと、後の判断が楽になります。
任意後見は、本人が十分な判断能力を有する時に、あらかじめ、任意後見人となる方や将来その方に委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行う制度です(出典:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A(任意後見制度について)」)。
特徴は次のとおりです。
誰に任せるかを本人が決められる点が、法定後見との大きな違いです。ただし、判断能力が低下してからでは契約できません。
また、任意後見契約があれば、それだけで不動産を売却できるわけではありません。契約が効力を持っているか、売却の権限が含まれているかを先に確認する必要があります。
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任意後見で売却するときに確認すること
このほかに、信託契約を使う方法などもあります。いずれも契約する時点で本人に判断能力があることが前提です。仕組みや税務の扱いは複雑ですので、弁護士・司法書士・税理士などの専門家へご相談ください。
診断されたことだけを理由に、売却できなくなるわけではありません。判断されるのは、契約のときに本人が契約の内容と結果を理解できる状態かどうかです。
程度は人によって異なります。医師による医学的な評価を参考にしながら、契約時の本人の理解状況を個別に確認することになります。判断に迷う場合は、弁護士・司法書士などへご相談ください。不動産会社が判定できる事柄ではありません。
あたる可能性があります。裁判所は、現に住居として使用している場合に限らず、施設に入所していて将来居住する可能性がある場合や、入所前に居住していた場合なども含むとしています。
判断に迷う場合は、申立先の家庭裁判所に確認してください。
申立てから審判までは、おおむね1か月から2か月程度とされています。鑑定を行う場合は、さらに期間が必要です。
その後、居住用不動産であれば家庭裁判所の許可を得る手続きが加わり、買主を探す期間も別に必要になります。売却を急ぐ事情がある場合は、早めに準備を始めることをお勧めします。
家庭裁判所が選任するため、希望どおりになるとは限りません。候補者を挙げることはできますが、専門家や法人が選ばれる場合もあります。複数の後見人が選ばれることもあります。
本人のための支出が原則です。売却代金は本人の財産として管理され、介護費用や施設費用など、本人のために使われます。
家族の生活費や相続対策のために自由に使えるものではありませんので、目的をはっきりさせたうえで検討してください。
事情によって異なりますので、一概には言えません。
相続後に売る場合は、まず相続登記が必要です。相続登記は2024年(令和6年)4月1日から義務化されています。詳しくは「相続登記の義務化とは?手続きと期限」をご覧ください。相続人が複数いる場合の進め方は「共有名義の不動産は売却できる?」で説明しています。
税金の面では、生前に売る場合、マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除を使える可能性があります。ただし、以前住んでいた家屋については、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合に限るという期限があります(出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」。令和7年4月1日現在の法令等による)。
相続後の売却では、適用できる特例の種類が変わります。どちらが有利かは、家族構成・財産の内容・時期によって変わりますので、税理士または税務署にご確認ください。売却時の税金の考え方は「不動産を売ったときにかかる税金は?」で整理しています。
現状の整理や相場の確認といったご相談は、お受けしています。
ただし、売主はあくまで所有者である本人です。本人が判断できる状態であれば本人が契約し、意思能力を欠いている場合は、成年後見人などの法定代理人が本人に代わって手続きを行います。媒介契約を結ぶ段階では、契約できる立場の方に手続きをお願いすることになります。まずは名義と判断能力の状況を確認するところから始めていただければと思います。

親の家をどうするかは、家族の事情が絡む問題です。手続きの順番を知っておくだけでも、慌てずに判断できる場面が増えます。
本記事は、一般的な情報提供を目的としています。判断能力の程度や手続きの進め方は、個別の事情によって異なります。
法令や制度は変更されることがあります。ご確認の際は、最新の情報をお確かめください。
南城市で、親名義の実家をどうするか迷っている方へ
「まだ売ると決めたわけではないが、進め方を知っておきたい」という段階のご相談でも構いません。
イエリテでは、名義と権利関係の状況を一緒に確認し、今の時点で選べる方法と、手続きにかかる期間の見通しを整理してお伝えしています。手続きが必要な場面では、司法書士など専門家への相談もご案内します。
南城市および沖縄県南部の不動産について、現状の確認だけのご相談もお受けしています。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
相続や親の不動産の扱いでお悩みの方は、状況を整理するところからお気軽にご相談ください。