

築40年を超えたアパートで修繕の相談が続くと、「このまま直し続けるより建て替えたほうがよいのではないか」という考えが出てきます。ところが建築会社から見積りを取り始めた段階で止まるのが、まだ住んでいる入居者への対応です。建替えは建築費の問題として始まりますが、実際に計画を左右するのは、残っている入居者の契約がいつ終わるのか、終わらせられるのかという点になります。
扱うのは、建物賃貸借がどうすれば終わるのかという借地借家法の仕組みと、そこから逆算した建替えの段取りです。立退料の金額の目安や、どのくらいの築年数なら退去を求められるかといった相場の話は書いていません。公的な基準がなく、個別の事情による判断になるためです。
執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年9月2日
情報確認日:2026年9月2日
この記事の目次
最初に確認するのは、残っている入居者それぞれの契約が普通借家契約なのか、定期建物賃貸借契約(定期借家契約)なのかです。ここで進み方が大きく変わります。
定期借家契約は、借地借家法38条の要件を満たして有効に成立していれば、更新がなく期間の満了によって終了する仕組みです。普通借家契約の更新拒絶に必要な「正当事由」とは別のルートになります。
普通借家契約であれば、さらに期間の定めがあるか、期間の定めがないかで手続が変わります。「期間の定めがある契約」という区分だけで判断すると、定期借家契約も同じ枠に入ってしまうため、契約の種類を先に確定させてください。
貸主が更新を拒む場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新をしない旨(または条件を変更しなければ更新しない旨)を相手方へ通知する必要があります。この通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます。そして、このとき更新された契約の期間は「定めがないもの」になります(借地借家法26条1項)。
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用語解説:法定更新
貸主・借主が更新の手続きをしないまま期間が満了したときに、法律の規定によって契約が更新されたものとして扱われることをいいます。合意によって新しい契約書を交わす「合意更新」と区別されます。
つまり、更新のたびに何もしないでいると、契約は期間の定めのない形へ変わっていきます。長く続いているアパートの普通借家契約が「期間の定めがない状態」になっていることは、この仕組みによります。
貸主からの解約の申入れによって、申入れの日から6か月を経過することで賃貸借が終了します(借地借家法27条1項)。
ただし、AとBのどちらの場合も、通知や申入れをすればそれで終わるわけではありません。次の2点が続きます。
建替えの計画は、建築会社の都合ではなく、契約の通知時期から逆算して組み立てることになります。ここで注意したいのは、26条1項の通知期間が「満了前の1年間ならいつでもよい」という意味ではないことです。期間満了の1年前に始まり、期間満了の6か月前で終わる、6か月間の期間を指します。
期間の定めがある普通借家契約で残り2年ある入居者がいれば、いまはまだ通知期間に入っていません。おおむね1年後に通知期間が始まり、そこから半年の間に通知することになります。実際の起算は契約書に記載された期間満了日を基準に確認し、更新に関する特約がある場合はその内容もあわせて確認してください。
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契約書で確認しておく項目
契約書が見当たらない場合は、賃料の入金記録や過去の更新の通知書など、契約の内容を裏づける資料を探すところから始めます。管理を委託しているなら、管理会社が保管している契約書の写しを取り寄せます。

借地借家法28条は、貸主からの更新拒絶の通知や解約の申入れについて、「正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」と定めています。判断の材料として条文が挙げているのは、次の4つです。
注目したいのは、条文が「〜のほか」「並びに」でこれらを並べていることです。どれか1つを満たせば正当事由が認められるという書き方にはなっていません。複数の事情を合わせて判断されます。
そして4番目の「財産上の給付をする旨の申出」が、いわゆる立退料にあたります。立退料は条文上、正当事由を判断する材料の1つとして位置づけられており、支払えば必ず退去してもらえるという性質のものではありません。
正当事由が認められるかどうかは、個別の事情を総合して判断されます。実際に争いになった場合の見通しは、契約の経緯や建物の状態、双方の事情によって変わるため、この記事で一般的な基準を示すことはできません。入居者との話し合いが進まない見込みがある段階では、弁護士へ相談し、その契約と建物の状況で何が正当事由の材料になるかを確認しておくことをお勧めします。

イエリテの実務から
建替えのご相談をいただく場面で、「建物がここまで古くなっているのだから、入居者には出てもらえるはずだ」という前提でお話が進んでいることがあります。建築会社との打ち合わせが先に進み、着工時期まで決まった後で、入居者への説明をどう切り出すかという段階になって当社へ相談に来られるケースです。建物の状態は借地借家法28条が挙げる「建物の現況」にあたる事情ですが、それだけで結論が決まるわけではありません。
老朽化について、あわせて確認しておきたい点が2つあります。
1つは、建替えを決めるまでの間も、貸主の修繕義務はなくならないことです。民法606条1項は、賃貸人は賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うと定めています(借主の帰責事由による場合を除きます)。建替えの予定があることだけを理由に、使用収益に必要な修繕を止められるわけではありません。個別の修繕義務の範囲や対応の方法は、不具合の内容、契約が終了するまでの期間、工事の必要性などを踏まえて判断することになります。判断に迷う場合は弁護士へ確認してください。
もう1つは、老朽化しても契約が自然に終わるわけではないことです。民法616条の2は、賃借物の「全部」が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合に賃貸借が終了すると定めています。ここで終了するのは、全部が使用できなくなった場合です。傷みが進んでいても入居者が生活できている状態は、これにあたりません。
イエリテの実務から
建替えの資金計画が、解体費と建築費だけで組まれていることがあります。入居者への対応にかかる費用と、退去してもらうまでの期間の家賃収入の変化が計画に入っていないため、後から総額が動きます。当社では、検討を始めた段階で入居者対応の費用を「まだ金額が決まらない項目」として計画の中に置いておくことをお勧めしています。
立退料には、法律上の算定式も、公的に示された基準もありません。前述のとおり、借地借家法28条が正当事由の判断材料の1つとして「財産上の給付をする旨の申出」を挙げているだけです。金額は、入居者の状況(転居先の確保にかかる費用、営業用であれば営業への影響など)や、正当事由を構成する他の事情の強さとの関係で個別に決まっていきます。
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注意点
「家賃の何か月分」といった数字を資金計画の前提にすると、実際の話し合いで金額が動いたときに計画全体が崩れます。金額は個別に決まるものとして、幅を持たせて検討してください。
個人が支払った立退料の扱いは、その支出の目的によって3つに分かれます(国税庁タックスアンサー No.1382 立退料を支払ったとき)。
| 立退料を支払う目的 | 所得税での扱い |
|---|---|
| 賃貸建物やその敷地を譲渡するために支払う | 譲渡費用になります |
| 不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かせるために支払う(上下の区分に当たるものを除く) | 不動産所得の必要経費になります |
| 土地建物等を取得する際に、その使用者へ支払う | 取得費・取得価額に含まれます |
建替えのために支払う立退料は、原則として2番目の区分にあたります。一方、建物を取り壊して土地を売却する目的で支払う場合は1番目の譲渡費用の側になります(同No.3255 譲渡費用となるもの)。同じ「立退料」でも、その後の出口をどちらに取るかで扱いが変わるため、計画の段階で税理士へ確認しておくと、後の申告で迷いません。
なお、上記はいずれも個人の所得税についての取扱いです。法人がオーナーの場合は法人税の取扱いを別に確認する必要があります。また、立退料を受け取った入居者の側にも課税関係が生じます(同No.3155 借家人が立退料をもらったとき)。入居者から税金について尋ねられたときは、税務署または税理士へ確認していただくよう案内するのが適切です。
建替えを検討し始めたのに空室の募集を通常どおり続けると、期間の定めのある契約が新たに増えていきます。募集を続けるかどうか、続けるならどの契約の形にするかを決めてから動くことになります。
期間満了で確実に終わる契約にするなら、定期建物賃貸借(定期借家)を使う方法があります。借地借家法38条が定めるルールは、「更新がない」という定めを有効に成立させるための要件と、成立した定期借家を期間満了で終了させるための通知の2つに分かれます。効果が違うため、分けて理解しておくと安全です。
期間が1年以上の場合、貸主は期間満了の1年前から6か月前までの間に、期間満了により終了する旨を通知しなければ、その終了を借主に対抗できません。この期間を過ぎてから通知した場合でも、通知の日から6か月を経過した後は対抗できます。
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2つの効果を混同しない
終了通知を出し忘れても、定期借家契約そのものが無効になったり、普通借家契約へ自動的に変わったりするわけではありません。期間満了による終了を借主へ対抗できなくなり、通知の時期が後ろへずれるという効果です。
期間満了後も貸し続けたい場合は、あらためて新しい契約を結ぶことになります。定期借家に更新はないため、同じ手続き(書面と事前説明)をもう一度行う必要があります。
一方で、すでに住んでいる入居者の普通借家契約を、貸主の側から定期借家契約に変更することはできません。合意による切替えについても、居住用の建物では制限があります。定期借家制度は2000年(平成12年)3月1日から施行されました。その施行前に締結された居住の用に供する建物の賃貸借について、当事者が合意により賃貸借を終了させ、引き続き同じ建物を目的とする新たな賃貸借をする場合には、当分の間、定期借家の規定は適用されません(良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法 附則1条ただし書・3条、国土交通省 定期建物賃貸借)。2000年3月1日より前から続いている居住用の契約は、合意のうえでも定期借家へ切り替えられないことになります。既存の入居者の契約をどう扱えるかは、契約が始まった時期を確認したうえで判断してください。
普通借家契約と定期借家契約の違いそのものについては、普通借家契約と定期借家契約の違いは?戸建てを貸すときの選び方で詳しく扱っています。
入居者への対応と並行して確認しておきたいのが、建替え後の建物の規模です。今と同じ戸数を建てられる前提で資金計画を組むと、後から前提が変わることがあります。
建築基準法3条2項は、規定の施行または適用の際に現に存する建築物には、その規定を適用しないと定めています。いわゆる既存不適格です。現在の建物が今の基準に合っていなくても、そのまま建っている限りは違法建築とは扱われません。
一方、この緩和は建替えには及びません。建物を取り壊して新築する場合、新しい建物は現行の規定に適合している必要があります。建蔽率・容積率・用途地域の制限、そして都市計画区域・準都市計画区域内にある敷地では接道義務(建築基準法43条)などによって、建てられる規模が決まります。接道義務を含む同法第3章の規定は、都市計画区域および準都市計画区域内に限って適用されます(同法41条の2)。南城市には都市計画区域外の地域もあるため、その敷地にどの規制がかかるかを先に確認してください。その結果、従前と同じ規模で建てられない場合があります。
どの程度の建物を建てられるかは、敷地ごとの条件で変わります。南城市の場合、都市計画に関する事項は市の都市計画課で確認できます。設計を依頼する建築士に、現在の敷地条件で建てられる規模を先に確認してもらうと、資金計画の前提を早い段階で固められます。
入居者との話し合いを不動産会社や管理会社に任せられるか、という質問をいただくことがあります。ここには法律上の線があります。
弁護士法72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを業とすることを禁じています。対象は、訴訟事件その他一般の法律事件に関する鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務、およびこれらの周旋です(法律に別段の定めがある場合を除きます)。報酬を得て立退きの交渉を代理することは、この規定に抵触するおそれがあります。
また、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律2条2項が定める「管理業務」は、賃貸住宅の維持保全(およびその契約の締結の媒介・取次ぎ・代理)と、これとあわせて行う家賃・敷金などの金銭の管理です。立退きの交渉は、この管理業務の定義に含まれていません。管理を委託しているからといって、交渉まで当然に含まれるわけではないことになります。
どのような関与が弁護士法72条にいう法律事務にあたるかは、個別の状況によって判断が分かれます。入居者との間で条件の折り合いがつかない見込みがある場合は、早い段階で弁護士へ相談してください。当社がお手伝いできるのは、契約の状況や物件の条件を整理し、どの点を弁護士・建築士・税理士へ確認すべきかを切り分けるところまでです。
入居者の退去が済み、実際に解体へ進む段階では、いくつかの届出が必要になります。南城市「建築工事届、建築物除却届等について」では、次の手続きが示されています。
このほか、解体工事の前には石綿(アスベスト)の有無を調べる事前調査が義務づけられています(環境省 アスベスト(石綿)関連情報)。調査を行うのは解体を請け負う事業者ですが、調査と必要な対策の費用・期間は工事の見積りと工程に影響します。築年数の古い建物では、その分が見積りに含まれているかを確認してください。
実際にどの届出が必要になるかは工事の内容によって変わります。解体を依頼する業者が届出を代行することもあるため、どちらが行うかを見積りの段階で確認しておくと行き違いが起きません。最新の様式や提出先は、南城市役所へ確認してください。
建替えは、入居者への対応・解体・建築という3つの工程を順に進める必要があり、着手から完成まで長い期間がかかります。その間、家賃収入は減っていきます。検討の初期に、他の出口も並べて比べておくと、建替えという結論が本当に自分の条件に合っているかを確かめられます。
空室が目立ってきたことが建替えを考えるきっかけになっている場合は、その空室の原因が建物の古さによるものか、募集の条件によるものかを先に切り分けておくと判断を誤りません。切り分けの手順は南城市でアパートの空室が続くのはなぜ?で説明しています。
入居者との合意によって賃貸借を終了させることは可能です。正当事由が問題になるのは、貸主から一方的に更新を拒絶したり解約を申し入れたりする場合です。合意で終了する場合も、退去の時期・原状回復・敷金の精算・費用負担を書面に残しておくと、後の行き違いを防げます。
時期そのものに法律上の定めはありません。ただし、期間の定めがある普通借家契約で更新を拒絶する場合は、期間満了の1年前から6か月前までの6か月間という通知の時期が決まっています(借地借家法26条1項)。この時期に間に合わせるには、建替えの計画がある程度固まっていることが前提になります。伝え方や順序に不安がある場合は、事前に弁護士へ相談してください。
契約の内容によります。借地借家法33条1項は、貸主の同意を得て建物に付加した畳・建具その他の造作について、賃貸借が期間の満了または解約の申入れによって終了するときに、借主が時価での買取りを請求できると定めています。なお、同法37条が特約を無効とする対象として挙げているのは31条・34条・35条であり、33条は含まれていません。造作買取請求権を排除する特約は、一般に有効と解されています。契約書にその定めがあるかを確認してください。
融資の可否や条件は金融機関ごとに判断が異なるため、一般化してお答えできません。ただし、着工の時期が入居者の退去時期に左右される点は、資金の実行時期にも関わります。融資の相談をする段階で、入居者の契約状況を金融機関へ正確に伝えておくことをお勧めします。
登記が未了だから法律上ただちに何もできない、というわけではありません。相続が開始すると、不動産の権利は相続人へ承継されます。遺産分割が済んでいない段階で相続人が複数いる場合は、全員が法定相続分の割合で取得した共有状態になります(法務省 相続登記の申請義務化特設ページ)。
ただし、建物の解体や建替え、融資や抵当権の設定、完成した建物の登記まで進めるには、誰が所有者として進めるのか、共有者の間でどう意思決定するのかを整理しておく必要があります。単独で取得するか共有のまま進めるかも含めて、方針を先に決めておくと計画が止まりません。
また、相続登記の申請は令和6年(2024年)4月1日から義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。施行日より前に相続したことを知っていて登記がされていない不動産については、令和9年(2027年)3月31日までが期限です(出典は同ページ)。建替えの計画と並行して、早い段階で司法書士へご相談ください。
築古アパートの建替えは、建築費よりも先に、入居者の契約と時間の制約から検討が始まります。
最初に取りかかることは、各戸の契約書を集めて、契約期間と直近の更新の状況を一覧にすることです。ここが分からないままでは、建築会社との打ち合わせも資金計画も前提が定まりません。
この記事は、2026年9月2日時点の法令・公的資料をもとに一般的な情報を提供するものです。個別の契約や物件の事情によって結論は変わります。法的な紛争にわたる判断は弁護士へ、税務の判断は税理士へ、建築の可否は建築士へご確認ください。制度・様式は変更される場合がありますので、手続きの際は各窓口で最新の情報をご確認ください。
建替えを進められるかどうかは、各戸の契約がどの状態にあるか、その敷地でどの規模まで建てられるか、そして入居者の事情によって変わります。株式会社イエリテでは、契約の状況や物件の条件を整理しながら、建て替える・修繕して貸し続ける・売却するといった進め方を比べるところからお手伝いします。弁護士・建築士・税理士へ確認すべき点の切り分けもあわせてご案内します。建替えを決めていない段階でもご相談ください。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
売却だけでなく、賃貸や管理を含めた活用方法についてもご相談いただけます。