

執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年8月18日
築年数が経ったアパートを所有していると、「このまま経営を続けるか、それとも売却するか」という判断を一度は迫られます。相続で引き継いだ場合は、経営の経験がないまま判断を求められる場合もあります。
この判断には正解が一つあるわけではなく、収支・空室・修繕・契約関係・税務など、複数の材料をあわせて考える必要があります。南城市周辺でアパートを所有する方が、続けるか売るかを考えるときに確認しておきたい視点を、順番に見ていきます。
この記事の目次
次のような状況になったとき、続けるか売るかの検討が必要になります。
今の収支がどうなっているか、今後どれくらいの費用がかかりそうかを数字で確認したうえで検討することが、判断のずれを防ぐ第一歩になります。
まず確認したいのは、現在の収支です。家賃収入から、次のような費用を差し引いて、実際にいくら手元に残っているかを整理します。
収支を見るときは、税務上の必要経費と資金繰り上の支出を分けて考えることが大切です。不動産所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。固定資産税や損害保険料、通常の維持管理・原状回復のための修繕費は、賃貸に直接必要な範囲で必要経費になります。一方、建物の価値を高めたり、使用可能期間を延ばしたりする工事は、名称が「修繕」でも原則として資本的支出となり、支出した年に全額を必要経費にするのではなく、減価償却で計上します(出典:国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」/「No.2107 資本的支出を行った場合の減価償却」)。大規模修繕や設備更新は区分が分かれることがあるため、見積書をもとに税理士へ確認することをおすすめします。借入金の元本返済や、将来の修繕に備えて自分で積み立てる資金は、通常は必要経費に含まれません。一方で、資金繰りを考えるときは、元本返済や修繕資金の確保も含めて、手元資金がどれだけ増減するかを別枠で確認します。業務のための借入金利息は必要経費になり得ます(出典:国税庁「No.2210 やさしい必要経費の知識」)。
家賃を見直す場合も、空室募集時に新しく設定する募集賃料と、すでに入居している方の契約賃料は分けて考える必要があります。募集賃料は次の入居者募集にあわせて調整できますが、既存入居者の賃料を変更するには、契約内容の確認や協議、場合によっては借地借家法上の増減額請求の要件を満たすことが必要です(出典:e-Gov法令検索「借地借家法第32条」)。
💡
判断のポイント
収支が赤字に近づいている場合は、まず募集賃料を見直せる余地があるか、経費を削減できる部分があるかを確認します。それでも改善が見込めないときに、売却後の手取りとの比較へ進むという順序で考えると判断しやすくなります。

「続けるか売るか」を判断するときは、査定額だけでなく、それぞれの選択肢で最終的に手元にいくら残るかを比較すると整理しやすくなります。このとき大切なのは、比較する期間を先にそろえることです。売却は「今すぐの一時金」ですが、保有継続は「複数年にわたる収支」になるため、たとえば「今後5年」など期間の目安を置き、その期間中の資金繰りと、期間末に売却する場合の想定手取りをあわせて確認すると、両者を同じ土俵で比較できます。この期間はあくまで例であり、修繕の予定時期やローンの返済期間にあわせて調整してください。将来の家賃・空室・売却価格を1つの数字で断定せず、複数の前提で確認することをおすすめします。
売却側の手取りは、税金(譲渡所得税)を差し引いた税引後の金額です。保有継続側もこれとそろえて比較する場合は、次の項目に加えて、不動産所得にかかる所得税・住民税の概算も確認します。不動産所得は給与所得など他の所得と合算して税額を計算する総合課税のため(出典:国税庁「No.2220 総合課税制度」)、正確な税額は税理士へ確認してください。税引前の収支だけで比較する場合は、その旨をそろえたうえで見比べます。
売却代金や自己資金だけではローン残債・諸費用を賄えない場合は、抵当権抹消や決済の条件について、事前に金融機関へ確認しておく必要があります(出典:住宅金融支援機構「融資住宅等の任意売却」)。
査定額そのものではなく、売却費用・税金・ローン残債を差し引いたあとに実際に残る現金を、同じ比較期間でそろえた保有継続時の手取りと比較することが、判断のずれを防ぐポイントです。個別の試算は、不動産会社や税理士へ相談することをおすすめします。
空室が続く原因は、家賃設定・建物の状態・募集条件など複数考えられます。空室が続いているからといって経営をやめると結論を急ぐ前に、原因を切り分けて確認することが必要です。
南城市周辺で確認する場合は、次のような資料を集めて比較すると、家賃や設備の見直しが必要かどうかを判断しやすくなります。地域の相場を断定的な数値で示すことは避け、実際に確認できる資料をもとに比較してください。
✓
地域で確認したい資料
原因によっては、家賃の見直しや設備投資で改善できる場合もあれば、立地や建物の構造上、改善が難しい場合もあります。設備投資で改善を図る場合に、いくらまでかけてよいかを回収の見込みから逆算する考え方は空室対策に設備を追加すべき?かけた費用を回収できるかの考え方で整理しています。
築年数が経った建物では、大規模修繕のタイミングが経営判断に大きく関わります。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」は分譲マンションの管理組合向けに作成されたものです。ただし、外壁塗装や屋上防水などの大規模修繕を12〜15年周期とする目安、既存の防水層を撤去して新たに形成するような工事を24〜30年周期とする目安は、賃貸アパートの修繕計画を考えるうえでも参考になります。賃貸住宅向けには、国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」に部位別の点検・修繕の目安も示されています。実際の周期は、沖縄の気候・工法・劣化診断の結果・過去の補修履歴をふまえて個別に判断してください(2026年8月確認)。
修繕費用は、建物の構造・規模・劣化状況によって大きく異なります。まとまった修繕費を借入なしで用意できるか、借入をしてでも修繕して経営を続けるべきかは、修繕後にどの程度の期間、入居需要が見込めるかとあわせて判断する材料になります。なお、ここでの修繕周期はあくまで物理的な計画の目安であり、その支出が税務上いつ・どのように費用計上されるかは別の論点です(下記参照)。
税務上の減価償却にも触れておきます。建物の法定耐用年数は構造・用途によって異なり、住宅用建物では木造・合成樹脂造で22年、鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造で47年、金属造は骨格材の肉厚により19〜34年です(出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」)。ただし、中古で取得した建物は、法定耐用年数とは異なる年数(簡便法など)で見積もる場合があります(出典:国税庁「No.2108 中古資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却」)。償却が終わったあとに帳簿上の所得と手元のお金がどうずれていくかは、築古アパートをどうする? 持ち続けるか決める前に確認したい6つのことで扱っています。
!
注意点
耐用年数は建物の寿命そのものを示す数字ではなく、減価償却の計算に使う税務上の年数です。取得の経緯(新築取得か中古取得か)や未償却残高によって、償却できる期間や税務上の扱いは異なります。個別の状況は税理士へ確認することをおすすめします。
売却を選ぶ場合は、契約関係と税金の2点を中心に確認しておくと、見込み額や手取り額の見通しを立てやすくなります。
入居者がいる状態のまま売却する方法は、オーナーチェンジと呼ばれます。売却によって賃貸借契約が当然に終了するわけではなく、新しい所有者に賃貸人としての地位や敷金の返還債務が引き継がれるのが原則です(民法第605条の2)。空室を埋めてから売却するか、入居者がいる状態のまま売却するかによって、買主の探しやすさや売却価格の考え方も変わります。
✓
オーナーチェンジ売却前の確認事項
続ける方針を選ぶ場合は、次の点を整理しておくと、今後の経営が安定しやすくなります。
入居者との契約が普通建物賃貸借の場合、正当な事由がない限り、貸主側から更新を拒絶したり解約を申し入れたりすることはできません(借地借家法第28条)。通知の時期にも決まりがあるため、建物の老朽化を理由に退去を求める場合は、事前に確認が必要です。一方、定期建物賃貸借は、書面または電磁的記録による契約と、契約前の事前説明など、借地借家法第38条の要件を満たして締結する必要があります。事前説明書面を電磁的方法で提供する場合は、借主の承諾が必要です。契約期間が1年以上の場合、貸主は期間満了の1年前から6か月前までに終了通知を行う必要があります。通知がこの期間より遅れた場合、貸主は通知日から6か月を経過するまで契約終了を借主に主張できません。契約期間が1年未満の場合、この終了通知は不要です(借地借家法第38条。出典:国土交通省「定期建物賃貸借Q&A」)。契約の種類や要件を満たしているかは記事だけで判断せず、契約書と説明記録を確認したうえで検討してください。建物の老朽化を理由に建替えを検討する場合、正当事由や立退料をどう考えるかはアパートを建て替えたい|入居者に退去してもらえるか、立退料はどう考えるかで詳しく扱っています。
管理を管理会社へ委託する場合は、委託する業務の範囲や、契約内容の見直しが必要になることもあります。委託先の変更や管理体制の比較を検討する際は、個別にご相談ください。
売却時には譲渡所得税がかかる場合があります。課税対象になる譲渡所得は、次の式で計算します。
課税譲渡所得金額 = 譲渡価額(収入金額) −(取得費+譲渡費用)− 特別控除額
取得費や譲渡費用、適用できる特別控除額が譲渡価額を上回る場合は、譲渡所得がゼロ以下となり、税額は生じません(出典:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」)。ここでいう「取得費」は、購入・建築時の金額をそのまま使うのではありません。賃貸に使ってきた建物では、所有期間中の毎年の減価償却費の額(必要経費に計上していない年分があってもその額を含みます)を購入・建築代金等から差し引いた金額が取得費になります(出典:国税庁「No.3261 建物の取得費の計算」)。土地と建物を分けたうえで、過去の確定申告書や減価償却明細で確認してください。
課税譲渡所得がプラスになる場合、所有期間が売却した年の1月1日時点で5年を超えるときは長期譲渡所得(税率20.315%)、5年以下のときは短期譲渡所得(税率39.63%)に区分されます(出典:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」/「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」)。この税率には、所得税に上乗せされる付加税が含まれています。2026年分までは復興特別所得税2.1%(基準所得税額に対する割合)が上乗せされますが、2027年(令和9年)分以後は、防衛特別所得税1%と復興特別所得税1.1%にわかれ、合計では基準所得税額に対して2.1%のまま変わりません(出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱」)。売却する年によって内訳が変わるため、正確な税額は税理士へ確認してください。
なお、居住用財産を売却した場合に使える3,000万円特別控除は、賃貸専用のアパートには原則として適用されません。オーナー自身が居住している部分を含む建物を売却する場合は、居住部分の区分や適用要件を個別に確認する必要があります(出典:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」)。売却時の税金の基本的な考え方は、国税庁「土地や建物を売ったとき」でも確認できます。
このほか、個人でも課税事業者に該当する場合は、住宅賃貸用建物の売却で建物部分に消費税が関わることがあります(土地は非課税です)。該当するかどうかは、契約前に税理士へ確認することをおすすめします(出典:国税庁「No.3240 個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税」)。
相続したアパートを売却する場合は、被相続人の取得時期・取得費を引き継ぐのが原則です(出典:国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」)。相続税を納めている場合は、一定の期間内の売却であれば、納めた相続税額の一部を取得費に加算できる特例が使えることがあります。この特例は、原則として相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡することが要件です。一般には相続開始から3年10か月以内が目安になります(出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)。相続税を納めているか、売却予定日が期限内かを、売出し前に税理士へ確認してください。

相続した物件を売却するには、相続登記が済んでいる必要があります。相続登記の申請は義務化されており、期限は状況によって異なります。相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが原則です。2024年4月1日より前に相続を知った未登記不動産は、経過措置として2027年3月31日までが期限です。さらに、遺産分割で不動産の取得者が決まった場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容に応じた登記を申請する必要があります(出典:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」/「相続登記の申請義務化について」)。相続で引き継いだアパートを続けるか売るか検討する際は、この登記の状況もあわせて確認してください。
遺産分割がまとまらず、期限内に相続登記をすることが難しい場合は、相続人申告登記により基本的な申請義務(取得を知った日から3年以内の義務)を履行したものとみなされる制度があります。ただし、相続人申告登記で履行できるのはこの基本的な義務だけであり、遺産分割成立後の登記義務や、アパートを売却するために必要な相続登記の代わりにはなりません(出典:法務省「相続人申告登記について」)。売却も視野に入れる場合は、相続人間の整理と登記の進め方を早めに司法書士へ確認してください。
沖縄県南部は台風の影響を受けやすい地域です(出典:気象庁「沖縄本島地方の気候」)。屋根・外壁・雨樋などは、台風による損傷を受けやすい部分になります。修繕計画を立てる際は、次のような点もあわせて確認しておくと安心です。
続けるか売るかの判断は、収支・修繕計画・契約関係・税務など複数の専門分野にまたがります。税額の計算は税理士へ、契約や権利関係、相続登記・遺産分割の進捗に関わる部分は弁護士や司法書士への相談が必要になる場合があります。相談する際は、比較する期間、レントロール(入居状況の一覧)、ローンの返済予定表・残高証明書、予定修繕の見積り、売却時の概算手取り、管理委託契約書に加え、過去の確定申告書・減価償却明細、相続税の申告書類も準備しておくと、比較検討がしやすくなります。まずは現状の収支と建物の状態を整理したうえで、不動産会社へ相談すると、売却した場合の見込み額や、経営を続ける場合の管理体制の見直しについて、あわせて検討しやすくなります。
空室があっても売却は可能です。ただし、満室に近い状態と比べて買主の判断材料が変わるため、価格や売却のしやすさに影響することがあります。入居者が残る場合は、契約内容・敷金・滞納の有無・管理資料の引き継ぎもあわせて確認しておくことをおすすめします。
一概にはいえません。修繕後にどの程度の期間、入居需要を見込めるかや、修繕費用を借入で用意できるかによって判断が変わります。修繕費の見積額と、売却費用・税金・ローン残債を差し引いた売却後の手取り額をあわせて比較することをおすすめします。なお、修繕費の全額がその年の税負担をそのまま減らすとは限りません。工事内容によっては資本的支出として減価償却の対象になるため、見積書をもとに税理士へ確認してください。
管理会社へ委託することで、日常的な管理業務を任せながら経営を続けることは可能です。ただし、修繕計画や資金計画など、オーナーとして判断が必要な場面は残ります。管理会社へ任せられる業務の範囲と、管理委託料に含まれない費用についてはアパート管理会社の仕事内容と管理委託料に含まれる業務で整理しています。
売却も視野に入れる場合は、取得時期・取得費や相続税の申告資料を保管しておくとともに、相続時期・遺産分割が成立した日・相続登記や相続人申告登記の有無を確認し、税理士・司法書士へ確認することをおすすめします。
アパート経営を続けるか売るかは、収支・空室状況・修繕のタイミング・契約関係・税務上の影響など、複数の材料をあわせて確認したうえで判断することが大切です。査定額だけでなく、比較する期間と、税引前・税引後どちらの基準で比べるかをそろえたうえで、保有を続けた場合の資金繰りと、売却した場合に実際に手元へ残る金額を、複数の前提で比較することをおすすめします。入居者との契約や相続登記が未整理であれば、比較の前にその整理から進めてください。相続人申告登記だけでは売却に必要な相続登記の代わりにはならない点にも注意が必要です。どちらかを唯一の正解とせず、現状を数字で整理し、今後の見通しを立てたうえで検討してください。
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、2026年8月時点の法令・制度にもとづいています。個別の税額計算や法的判断については、税理士・弁護士など専門家にご確認ください。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
売却だけでなく、賃貸や管理を含めた活用方法についてもご相談いただけます。