

執筆・発行:株式会社イエリテ
公開日:2026年8月19日
情報確認日:2026年8月19日
祖父の代から持っている土地を売ることになったが、いくらで買ったのかを知る人がもう誰もいない。売買契約書も領収書も見当たらない。こうした状態で売却を進めてよいのか、確認を受けることがあります。
売ること自体はできます。困るのは、そのあとの税金の計算です。不動産を売った利益(譲渡所得)は「売った金額 − 取得費 − 譲渡費用」で計算するため、取得費が分からないと利益を正しく出せません。このとき使えるのが、売った金額の5%を取得費とみなす「概算取得費」です。ただし、これを使うと税金は重くなりやすく、資料が1枚見つかるだけで結果が変わることもあります。順に見ていきます。
この記事の目次
国税庁は、取得費が分からない場合について、売った金額の5%相当額を取得費とすることができるとしています。実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合も、5%相当額を取得費にできます(所得税法第33条・第38条、租税特別措置法第31条の4、同措置法通達31の4-1)。
例えば土地建物を3,000万円で売り、取得費が不明であれば、5%相当額の150万円を取得費として計算できます。これを概算取得費と呼びます。
つまり概算取得費は、取得費が分からない場合だけでなく、購入代金・付随費用・改良費などを含む実際の取得費が、売った金額の5%相当額を下回る場合にも使えます。逆にいえば、実際の取得費が5%相当額を上回るのであれば、その実額で計算するのが本来の形です。5%と実額のどちらか有利なほうを自由に選べる制度ではないため、実額が5%を上回る可能性があるときは、概算取得費で決める前に資料を確認しておきたいところです。
そして、この2つは足し算になりません。概算取得費(売った金額の5%)を使う場合は、登記費用・造成費・改良費などを別途上乗せできません。購入代金や改良費などを資料で積み上げた実額が、売った金額の5%相当額を上回る場合は、その実額で計算します。以下で紹介する取得費の項目は、実額で計算する場合の話です。
(出典:国税庁タックスアンサーNo.3258 取得費が分からないとき、国税庁「令和7年分 譲渡所得申告のチェックシート」)

実額で取得費を計算する場合、取得費は購入代金だけを指すものではありません。購入時の資料が見当たらない場合でも、別の書類が手がかりになることがあります。
国税庁は、取得費となるものとして、購入代金・建築代金・購入手数料のほか、次のようなものを挙げています。
購入代金の資料がなくても、造成や測量にかかった費用の資料が残っていれば、実額での計算に使える部分があります。土地の造成や擁壁の工事を過去に行っている場合は、その工事の契約書や請求書も探す価値があります。ただし、これらは実額で計算する場合の項目であり、5%の概算取得費に足すことはできません。
建物の取得費は、購入代金や建築代金をそのまま使うのではなく、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額になります。長く所有した木造住宅では、建物部分の取得費がかなり小さくなることがあります。土地と建物を一括で売る場合でも、この計算は建物部分について行います。
相続や贈与で取得した土地・建物を売る場合、取得費は、亡くなった方(被相続人)や贈与者がその不動産を買い入れたときの購入代金や購入手数料などをもとに計算します。実額で計算する場合には、相続人が支払った登記費用や不動産取得税が取得費に含まれることもあります。
取得の時期も引き継ぎます。長期譲渡所得か短期譲渡所得かは、被相続人や贈与者が取得した時から、売った年の1月1日までの所有期間で判定します。相続してから1年で売っても、被相続人が30年前に取得していれば長期譲渡所得として扱われます。
💡
先に結論
購入代金を確かめる資料は、亡くなった方が購入したときのものです。相続してからの書類だけを探しても購入代金は出てきません。一方で、相続人が支払った登記費用などの書類も、実額で計算する場合には使えることがあります。どちらも残しておいてください。
(出典:国税庁タックスアンサーNo.3252 取得費となるもの、No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期、No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税))
数字で見ると、差の大きさが分かります。南城市内の土地を2026年中に1,200万円で売却し、譲渡費用(仲介手数料・印紙税など)が50万円かかった場合を比べます。所有期間は売った年の1月1日時点で5年を超えている(長期譲渡所得)ものとし、特別控除の適用はない前提です。
| 項目 | 取得費が不明(5%) | 購入代金600万円の資料あり |
|---|---|---|
| 売った金額 | 1,200万円 | 1,200万円 |
| 取得費 | 60万円 | 600万円 |
| 譲渡費用 | 50万円 | 50万円 |
| 譲渡所得 | 1,090万円 | 550万円 |
| 所得税(15%) | 約163万円 | 約82万円 |
| 復興特別所得税(基準所得税額の2.1%) | 約3万円 | 約2万円 |
| 住民税(5%) | 約54万円 | 約27万円 |
| 税額の合計 | 約221万円 | 約112万円 |
この例では、購入代金の資料があるかどうかで約110万円の差が出ます(端数処理前の単純計算では約109万7,000円です)。あくまで概算であり、実際の税額は所得の状況や適用する特例によって変わります。
長期譲渡所得は所得税15%・住民税5%、短期譲渡所得は所得税30%・住民税9%です。所得税に対する付加税は、2026年分までは基準所得税額の2.1%の復興特別所得税です。2027年分以後は、防衛特別所得税1%と復興特別所得税1.1%が課され、合計は基準所得税額の2.1%になります(2026年8月19日時点で公表されている内容)。所有期間は、売った年の1月1日現在で5年を超えるかどうかで判定します。売却の時点で5年を超えていても、その年の1月1日時点で5年以下であれば短期譲渡所得になります。
なお、譲渡した日は原則として買主へ引き渡した日ですが、売買契約の効力発生の日に譲渡があったものとして確定申告することもできます。年をまたぐ契約・引渡しでは、長期・短期の区分や特例の期限に影響するため、契約の前に税理士へご確認ください。
(出典:国税庁タックスアンサーNo.3208 長期譲渡所得の税額の計算、No.3211 短期譲渡所得の税額の計算、No.3102 譲渡所得の申告期限、財務省「令和8年度税制改正の大綱」)

実額の取得費が5%相当額を上回るのであれば、資料を探すほど税額は下がります。売却の話が動き出す前に、次のものを一度確認してみてください。
✓
探しておきたい資料
これらの原本や写しがどこまで取得費の裏づけとして認められるかは、資料の内容によって異なります。購入代金を直接示す資料がない場合に、どの資料をどう評価できるかは事案ごとに違うため、手元の資料一式を税理士に見せたうえで確認してください。5%で申告するか、実額で計算するかは、その確認を経てから決める順番になります。
イエリテの実務から
当社へ寄せられたご相談では、先祖代々の土地の売却で、金庫から出てきたのが古い権利証だけだった、というケースがありました。売買契約書も領収書も見当たらず、購入代金を確認できる書類がない状態でした。同じご相談で、名義が亡くなった方のままで、相続登記も済んでいませんでした。
このときは、売却の段取りを進める前に、司法書士へ相続登記の相談を、税額の見込みは税理士への確認をお願いしました。名義の整理と税金の確認は担当する専門家が異なるため、どちらも早めに動き出すほうが、あとの日程に余裕が生まれます。
相続によって、不動産の権利そのものは相続人へ引き継がれます。ただし、亡くなった方の名義のままでは、買主への所有権移転登記を進められません。売却の決済・引渡しまでには、原則として相続登記が必要になります。共同相続の状態や遺産分割前の売却では、どの相続人の関与・合意が必要かが変わるため、司法書士へご確認ください。
相続登記は、自己のために相続の開始があったことと、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります。2024年4月1日より前に、相続でその不動産を取得したことを知っていて、相続登記が済んでいない場合も義務の対象で、2027年3月31日までに申請が必要です。一方、2024年4月1日以後にその不動産を相続で取得したと知った場合は、知った日から3年以内が期限になります。正当な理由がないのに申請を怠ると、10万円以下の過料の対象となることがあります。手続きの内容と期限は相続登記の義務化とは?相続した不動産の手続きと期限をわかりやすく解説で説明しています。
名義が祖父母の代のままで、相続が二代・三代にわたっている場合も、いつ相続で取得したと知ったかによって、2027年3月31日の期限か、知った日から3年以内かが決まります。いずれにしても、関係する相続人の範囲を確定するところから始まるため、早めに動くほうが安全です。この場合の進め方は亡くなった祖父名義の土地を売りたい|相続登記から売却までの流れ・期間・費用で整理しています。
戸籍を集めて相続関係を調べる過程で、亡くなった方の書類をまとめて確認する機会が生まれます。相続登記のために古い書類を探すときに、購入当時の資料もあわせて探しておくと、二度手間になりません。売却に必要な書類全体は不動産売却の必要書類一覧|権利証がないときの対処法と準備の進め方にまとめています。
(出典:法務省「相続登記の申請義務化について」)
取得費が小さくなると譲渡所得は大きくなりますが、適用できる特例があれば税額は変わります。
相続や遺贈で財産を取得した人に、相続税が課税されている場合の特例です。相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までにその財産を売ったときは、支払った相続税額のうち一定の金額を取得費に加算できます(租税特別措置法第39条)。相続税が課税されていることが前提になるため、相続税の申告が不要だった場合は対象になりません。適用を受けるには確定申告が必要です。相続税が課税されている場合など、この特例を確認したいときの要件の見方や、加算できる金額の計算方法は「相続した不動産を売るなら3年10か月以内?取得費加算の特例と期限の数え方」で整理しています。
(出典:国税庁タックスアンサーNo.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)
相続した家を売る場合の特例(相続空き家の特例)には、期限が2つあります。制度全体の期限は2027年12月31日までの譲渡ですが、これとは別に、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るという個別の期限があります。相続の時期によっては、2027年より前に期限を迎えます。
あわせて、相続の時から譲渡の時まで、その家屋や敷地を事業・貸付け・居住に使っていないことも要件です。「とりあえず貸しておく」と決めると、あとで売るときにこの特例を使えなくなることがあります。控除額は最高3,000万円ですが、2024年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は2,000万円が上限になります。耐震基準や家屋の状態などの要件もあり、要件と手続きは南城市で相続した空き家はどうする?売却・活用の選択肢と3,000万円特別控除で説明しています。自分が住んでいた家を売る場合の3,000万円特別控除は、これとは別の特例です。譲渡所得の計算と税金の全体像は不動産を売ったときにかかる税金は?譲渡所得税と3,000万円特別控除の基本にまとめています。
(出典:国税庁タックスアンサーNo.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)
!
注意点
相続空き家の特例と、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例は、同じ譲渡について併用できません。どちらが有利かは、相続税額・譲渡益・各特例の要件によって変わります。適用の可否と選択は、税理士に試算してもらったうえで判断してください。
査定価格が想定より高くても、取得費が5%でしか計算できなければ、手元に残る金額は思ったより少なくなります。逆に、価格が想定を下回っても、資料から確認できる実額の取得費が概算取得費を上回れば、税額が抑えられ、価格の下振れによる手取りの減少が一部和らぐ場合があります。
イエリテの実務から
ご相談を受けるとき、当社では査定価格だけをお伝えして終わらせないようにしています。仲介手数料などの費用と、税金の見込みを含めた「手取り」の考え方までお伝えしたうえで、売る・貸す・そのまま持ち続けるを比べていただくためです。取得費が分からない不動産では、税額の見込みによって判断が変わることがあります。
売却にかかる費用の内訳は不動産売却にかかる費用の内訳|支払うタイミングと手取りの考え方で整理しています。売らずに持ち続ける、あるいは貸すという判断もあります。ただし、相続空き家の特例を検討している家では、貸し始めることで特例を使えなくなることがあります。「いったん貸す」と決める前に、特例を使える可能性と期限を税理士へご確認ください。実家をどうするかで迷っている段階であれば、南城市の実家は残す?売る?決める前に確認したい「期限のあること」もあわせてご確認ください。
売る・貸す・持ち続けるは、一度きりの金額と毎年の金額が混ざるため、そのまま並べても比べたことになりません。同じ期間でそろえて比べる手順は売る・貸す・残すの比べ方と判断の順番で整理しています。
売った金額の全体に対して5%を計算する方法が示されています。国税庁タックスアンサーNo.3258の例では、土地建物を3,000万円で売った場合の概算取得費を150万円としています。土地だけ実額が分かり建物だけ不明といった場合の取扱いは個別性が高いため、資料の状況を示したうえで税理士へご確認ください。
資料としてどこまで認められるかは、資料の内容によって異なります。コピーであっても、当時の契約内容や金額が確認できる資料は、まず保管しておいてください。判断を自分で決めず、原本の有無や他の資料とあわせて税理士へ相談することをお勧めします。
譲渡所得が生じる場合や特例の適用を受ける場合は、譲渡した日の属する年の翌年に確定申告が必要です。申告期限は原則として翌年2月16日から3月15日までです。特別控除で税額がゼロになる場合でも、特例の適用を受けるためには申告が必要なものがあります。どの年の申告になるかは譲渡した日の判定によって変わるため、年をまたぐ取引では税理士または所轄の税務署へご確認ください。
取得費が分からない場合の計算方法は同じです。ただし、5%で計算すると計算上は利益が出やすくなるため、実際は損をしていても課税対象になることがあります。実額が分かる資料を探す意味は、この点にもあります。損失が出た場合の特例の適用可否も含め、税理士へご相談ください。
土地そのものを売る場合は本記事の考え方が前提になりますが、山林は立木の扱いで変わります。農地は土地の譲渡として扱われる一方、農地法の許可などの手続きが別途必要です。南城市内の農地の売却手順は南城市で農地・畑を売りたいときの流れ|農地法の許可と手続きの進め方で説明しています。山林は、土地付きで譲渡する場合の土地部分は譲渡所得になりますが、山林を伐採して譲渡する場合や立木のまま譲渡する場合は山林所得になります(取得後5年以内の譲渡は事業所得または雑所得)。この場合、5%の概算取得費や長期・短期譲渡所得の説明をそのまま当てはめられないため、立木を含めて売るのかどうかを税理士へご確認ください。
取得費が分からない不動産を売るときは、次の順で確認すると整理しやすくなります。
資料が1枚見つかるかどうかで、手元に残る金額は大きく変わります。売る決心がついていない段階でも、資料を探し始めることに損はありません。
この記事は、2026年8月19日時点の法令・公的資料にもとづく一般的な情報提供を目的としています。税額の計算例は特別控除の適用がない前提の概算であり、実際の税額は個別の事情によって変わります。取得費の判断・特例の適用可否・申告の要否は税理士または所轄の税務署へ、相続登記は司法書士へご確認ください。
購入当時の資料が見つからない、名義が亡くなった方のままで進め方が分からない。そうした段階のご相談も承ります。売却を決めていなくても構いません。

株式会社イエリテ 代表
沖縄県南城市出身。住宅建築設計や不動産実務の経験を活かし、土地・戸建て・空き家・相続不動産などの売却や活用をサポートしています。お客様一人ひとりの事情に寄り添い、売る・残す・活用するといった選択肢を分かりやすく整理してご提案します。
相続した不動産の扱いでお悩みの方は、状況を整理するところからお気軽にご相談ください。